「時間貧困」…時間不足が招く負のループ
時間に追われる日々が続くと、何が起こるのでしょうか。最近米国で指摘されているのが「時間貧困」という概念です。忙しく、余白のない日々を過ごしているため、本当に大切なことに時間を使うことができない状態を指します。
例えば、低賃金の仕事をしている人は、生活費を稼ぐために長時間労働になりがちです。もし自分のために使える時間があったなら、その時間をスキルアップなどの自己投資に充てて、収入を上げることも可能ですが、長時間労働ではその時間すら確保することができません。
お金があれば家事をアウトソーシングして余白をつくることもできますが、そのお金を生み出すための時間がなく、負のループに陥ってしまうのです。
ただ、この感覚は実際の所得に関係なく、世界中の人々に広がっています。過去の研究では、時間的貧困がウェルビーイングを低下させることが示されています。心理面では、ストレスや不安が増えたり、うつ病などのメンタルヘルスのリスクが高まったりすることが分かっています。
忙しい人は他者を助ける余裕を持ちづらく、また、「忙しい」と伝えることが誇張と受け取られ、人間関係にも悪影響を与える場合があります。
また、時間に追われることは、不眠症、疲れ、肥満、高血圧などといった身体的健康と相関があるという研究結果も出ています。時間がないと感じている人は、運動や病院の受診を先延ばしにしやすく、ファストフードを選ぶことが増える傾向にあることが指摘されています。
実際、仕事で忙しくしていると、風邪を引いていても病院に行かずに治そうとしたり、日々の食事を適当に済ませようとしたりすることは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。
さらに、時間がないことに慣れてしまうと、物質的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさからも遠ざかってしまいます。
早く起きた「10分」で仕事をしてしまう人
私にも経験がありますが、例えばいつもより10分早く起きることができても、その10分でスキルアップのための勉強をしようなどとは思わず、つい仕事のメールを打つなどして働いてしまうのです。せっかくできた余白を自分のために使うことができず、労働に費やしてしまう。これでは自分の人生を生きている気がしないでしょう。
実は私自身、以前はずっと時間に追われて、一体なんのために生きているのか分からない時期を過ごしていました。学生時代は大阪大学の人間科学部で心理学や行動学を学び、米国の大学院への留学を経て金融業界へ。気がつけば20年以上、米国の金融コンサルティング会社やメガバンクで管理職としてキャリアを積んでいました。
米国の金融機関で働いていた頃は、「出世街道を進むことが正しい」と信じて疑わず、ひたすら目の前の仕事に打ち込んでいました。しかし、子どもが生まれたことをきっかけに、「本当にこのままでいいのだろうか」と自問自答するようになったのです。仕事に費やす時間、仕事に対する価値観、意識の向け方……。それらが、本当に自分が望む人生と少しずつズレ始めていることに気づいたのです。

