被害総額1,800億円超…高齢者の「孤独」を金に換えるロマンス詐欺の実態
警察庁の「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」によると、令和7年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は1万5,142件、被害総額は1,827.0億円と、過去最悪のペースで推移しています。
そのなかでも、被害者の恋愛感情や親近感を標的とした「SNS型ロマンス詐欺」単体の被害を見ると、認知件数5,604件、被害総額552.2億円に達しています。また、同データによれば、SNS型ロマンス詐欺の既遂1件あたりの被害額は「987.0万円」と高額です。被害者の約6割を男性が占めており、特に男女ともに40代から60代のミドル・シニア層が標的になりやすいという実態もデータから見て取れます。
定年退職や配偶者との離別によって社会的なつながりを失った高齢者は、孤独感を抱えやすい傾向にあると、内閣府の調査などでも指摘されています。犯行グループはそうした心の隙間を的確に狙い、数週間から数ヵ月という長い時間をかけて、被害者との間に疑似的な恋愛関係や深い信頼関係を築き上げます。
そして、現代におけるロマンス詐欺で恐ろしいのは、単にお金を騙し取るだけでなく、高齢化社会における「孤独」という社会課題を、直接的に経済的搾取のターゲットとしている点です。
長年勤めてきた仕事の集大成として受け取った大切な退職金が、偽りの愛情によって一瞬にして奪われ、被害者を経済的にも精神的にも絶望の淵へと追いやる無慈悲な実態がそこにあるのです。
定年退職と熟年離婚が重なり、孤独を感じていた60歳男性が、退職金を含む老後資金を奪われた事例を見ていきましょう。
「これが最後の恋だと…」熟年離婚した60歳男性に訪れた“運命の出会い”
「定年後の孤独を埋めてくれる、最後の恋だと信じていたんです。まさか、金が目当てだったなんて……」
大手メーカーの部長職として新卒から勤めてきたアキオさん(仮名・60歳)は、数ヵ月前に無事定年退職の日を迎えました。真面目に働き続け、退職金2,400万円を受け取りました。これまでの貯金3,000万円と合わせると、合計5,400万円という盤石な老後資金を築きました。
しかし、達成感とは裏腹に、アキオさんは孤独感を覚えました。数年前に価値観の違いから妻と熟年離婚をしており、子どももすでに自立。定年を迎えて会社という居場所も失い、誰とも会話をしないような日々が続いていたからです。
そんなある夜、SNSを眺めていると、見知らぬ女性からダイレクトメッセージが届きました。
「素敵な写真を投稿されていますね。日本が恋しくて、ついメッセージを送ってしまいました」
プロフィール写真には、上品で美しい日本人女性が微笑んでおり、「海外でアパレル関係の会社を経営している」と自己紹介がありました。
「初めまして。外国で働いているのですね」と、アキオさんは寂しさから返信してしまったのです。
