町家が多く残る西陣、古い街並みが現存する谷中
西陣織で全国的に知名度が高い西陣の街は、古くから織物で栄え、ある種、京都の中心と捉えている人も多いかと思います。いまでも古くからの町家が多く残っていて(とはいえ、近年では解体されている様子も多く見られるのですが)、その種類もお屋敷を思わせる大きな町家から、町衆(まちしゅう)レベルのものまでさまざまです。
京都以外の人が思い描く京都らしい風景が多く、また探せば手ごろに購入できる町家が多いことから、家族で移住される方が多いエリアでもあります。さらに、京都のなかでも銭湯がいちばん多く残っている地域で、現在でも風呂なしの町家に住んでいる人が多くいます。最近では町家を改装したカフェが数軒見られ、観光客と思しき人が歩いている姿をちらほら見かけるようになりました。
谷中(やなか)もそのあたりに近い部分が見られます。谷中はもともと上野の寛永寺の子院が次々と建てられ、古くから寺町とされてきました。ほかの街に比べて関東大震災などの被害を受けることが少なかったため、古い街並みが現存している貴重な街でもあります。
ここ最近、若い担い手による古さを生かしたリノベーションが顕著になってきて、「HAGISO」というカフェやデザイン事務所のある文化施設など木造住戸を改装した店が増えてきています。
地元の人は自分たちの街が古いままだということにコンプレックスを持っていたそうですが、いまは「古いことが逆にいいんだ」という価値観も後押しになって、街として再評価されているように思えます。
小商いの店と住まいの共存が見られる紫野と根津
船岡山(ふなおかやま)のふもとの紫野(むらさきの)も近年は観光客が増えているスポットです。10年ほど前までは住む町としてのイメージが強かったのですが、英語の旅行ガイド「ロンリープラネット」に船岡温泉が紹介されたことで、外国人観光客が劇的に増えました。ただ、交通の便が悪い立地ですので、西陣ほど観光客が増えていないところが、逆に心地よくもあります。
ほかにも、鞍馬口(くらまぐち)通沿いには銭湯をリノベーションしたカフェ「さらさ西陣」やゲストハウス「月光荘(げっこうそう)」をはじめ、紙屋さん、雑貨屋さん、和菓子屋さんなど、小商いの店が群として集まっていて、どれも長屋を改装した店舗でマイペースに運営されています。旅行者のなかでも、3回目の京都など、ツウ向けのエリアとして注目されているようです。
もともと船岡山は登山者に人気が高く、その北側にある大徳寺(だいとくじ)にもコアなファンが多く、山と寺が見守る穏やかな地にあります。昔からある銭湯や渋い喫茶店が失われることなく残っていて、新しい店が違和感なく共存できているのも、じつにいい情景です。
根津(ねづ)は谷中の南に位置しますが、谷中より建物の単位が小さく、道路幅が狭く、より家が密集している印象があります。長屋に雑貨屋さんやカフェが入って群れになっているところが多く、より住まいと小商いの共存が見られるエリアでもあります。そのあたりが紫野と似ている点でしょう。
類似点
●古い家々のあいだに寺や銭湯が点在する。
●住む街だったが、近年は観光客が増えてきた。
●わりと交通が不便で、道路幅が狭い。
相違点
●谷中・根津は密集していて、西陣・紫野はそれを薄めたようにエリアが広い。