知らない街をイメージするのは難しいが…
京都府民が選ぶ京都の住みたい街ランキングの上位5地域は、1位が北山(きたやま)( 北〈きた〉区)、2位が烏丸(からすま)( 下京〈しもぎょう〉区)、3位が烏丸御池(おいけ)( 中京〈なかぎょう〉区)、4位が桂(かつら)( 西京〈にしきょう〉区)、5位が京都駅(下京区)というラインナップになっています(「2016年版みんなが選んだ住みたい街ランキング関西版」リクルート住まいカンパニー調べ)。
外の人からすると、烏丸はご存じの方も多いかもしれませんが、桂は行ったこともない人が大多数だと思いますし、京都で不動産業を営む私ですら意外な順位に思えました。地名だけ聞いて、インターネットで検索して、たとえグーグルマップのストリートビューで通りを歩いてみても、どんな街なのかをイメージすることは結構難しいものです。
でも、単純に「北山は代官山(だいかんやま)みたいなところ」「北大路(きたおおじ)は二子玉川みたいなところ」といったとたん、「あぁ、北山って、洒落しゃれたケーキ屋さんや雑貨屋さんがあるところなんだな」とか、「北大路はショッピングモールがあって、ファミリーに住みやすそうなところなんだな」とか、なんとなく暮らしのシーンが描けるのではないでしょうか。
そして、その後の会話も自然と弾みそうです。「北山には素敵なケーキ屋さんがあるんだろうね」とか、「植物園の借景が楽しめるピザ屋さんがあるんだよ」という話で盛り上がれるのは、きっと楽しいに違いありません。
投資等に必要な「リアルな情報」は探しにくい
私は2014年に東京から京都に移住しました(移住したといっても、京都が地元ですので、帰ってきたという感覚に近いのですが)。
東京では渋谷の不動産ベンチャーで会社員として働いていましたが、会社の枠を超えてリノベーション(既存の建物を改修することで新たな価値を生み出すこと)の関係者やお客さんと親しくさせていただきました。そのため、京都に帰ってきてからも、東京の同業者や、東京にいながら京都の物件を持っている個人のオーナーさん、東京に住んでいるけれども京都に移住しようと考えている移住希望の方など、東京在住のお客さんがほとんどです。
とくに移住者については現在、「京都移住計画」というプロジェクトに参画しています。京都移住計画とは、その名のとおり、京都に移住したい人を応援するプロジェクトです。具体的な求人情報や物件情報を紹介するほか、職住一体の個別相談や、「京都移住茶論(さろん)」という移住検討者向けの交流会を定期的に行うなど、さまざまなアプローチから多角的に進めています。私がかかわってからは2年あまりですが、200人以上の移住希望の方の話を聞いて相談に乗ってきました。
そのなかで、京都への憧れは強いものの、漠然と京都が好きで、京都の土地柄や人柄といった住むために必要なリアルな内容はなかなか知る機会がない。知りたいけれども足を踏み入れてはいけない気もしてよくわからない。そういった声が多くありました。
移住を検討している方のなかには、「高校生のころから京都に住むのが憧れだった」といいながら、適当に入店した不動産屋さんにすすめられるままに物件を決めてしまい、観光以上の京都情報をまったく持たないまま移住してしまう、というような強者もいました。
また、東京の投資家のなかでも、京都に物件を所有することをステータスと捉える人も多く、案外、京都の地域性を知らないで物件を購入している人にも多く出会いました。
不動産業の私からすると、「本当に怖い買い物をしているなぁ」と思うことがたくさんありましたが、彼らの行動が悪いとは思っていません。むしろ潔くて、自分ではとうてい真似できないので、ある種、尊敬に値します。
しかし、移住したり家を買ったりという行為は、どんな人にとっても、大金や人生が動く契機に違いありません。良いところも悪いところもできるだけ正しい情報を伝えて、たとえ失敗したとしても、みずから納得して決断していただきたい。生々しい現場をたくさん見てきたからこそ、そう思うのです。
そんな「京都は好きだけれども、地域性や街の違いについてはよく知らない」人たちと会話をする際の共通言語として、「京都の〇〇は、東京でいうところの△△」という、「もし京都が東京だったらマップ」が生まれたのです。
街の雰囲気は、知っている場所にたとえるとよくわかる
おそらく、東京で暮らした経験のある方には、無意識に東京にたとえながら京都の街を説明していたことがあったと思います。この本は、不動産業という立場で「場」をつくる仕事を東京と京都を横断して取り組んできた私が、曲がりなりにもそれをプロとしてまとめたものです。
一見、人はなんでも数字で示されるほうがわかりやすいように思いがちです。しかし、その土地の予備知識がまったくない人に、「電車の駅から○○メートルで、昼間人口は△△万人」といわれても、具体的にどんな街かイメージできるでしょうか。
イメージとは、自分がリアルに住むことを想定することだったり、人が使っているシーンを描けたりすることです。共有できる街のイメージ、つまり冒頭で述べたような「北山は代官山みたいなところで、素敵なケーキ屋さんがある」と伝えたほうが、具体的な街のイメージが伝わりやすいと思いませんか。より旬な街の様子が映像化されないでしょうか。
もちろん、「○○は△△ではないでしょう」という批判はたくさんあると思います。しかし、これはあくまでも私の主観による地図で、自分でも絶対にこれが正解だとも思っていません。「○○の街が好きな人は、△△もきっと好きだろう」という気持ちを重視して制作しています。人によって街の映り方は異なりますし、むしろ人によって違う見方になったほうがおもしろいな、とも思っています。しかし、示す方向性がなければ、みんな途方に暮れてしまいます。そのための救済地図です。
そう、この地図は、京都をざっくり把握できる非常に明快なツールでもあるのです。
※次回以降は、街歩きが楽しくなる、京都×東京の徹底比較をご紹介します。