(※写真はイメージです/PIXTA)

配偶者が亡くなり、相続が発生。法定通りに遺産分割をすると、住み慣れた自宅を売却するしかない…。ひとり残された配偶者がそのような危機的状況を乗り切るには、どんな方法があるのでしょうか。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。

折り合いの悪い息子に、自宅売却を迫られる70代女性

夫を亡くした佐藤洋子さん(仮名・70代)は、悲しむ間もなく、将来の生活不安におびえています。洋子さんには40代の息子が2人いますが、いずれとも折り合いが悪く、夫の死後、自宅を売却して遺産を分割するよう迫られているのです。

 

「夫が残した財産は自宅だけ。私はこの家に住み続けたいのですが、息子たちからは家を売ってお金を分けるよう迫られています。貯金があればいいのですが、夫の闘病と介護に使ってしまい、残りはわずかです。どうしたらいいのか…」

亡き配偶者の自宅に住み続けるための新制度「配偶者居住権」

配偶者が亡くなったことで、洋子さんのようなつらい立場に立たされる人を救うため、2020年4月1日に「配偶者居住権」が施行されました。この制度を活用することで、配偶者に先立たれた人が住まいを追われるという危機を回避しやすくなったのです。

 

あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、ごく簡潔に説明すると、亡くなった配偶者が所有していた自宅に、残された配偶者がそのまま住み続けることができる権利のことを言います。

 

事例の洋子さんのように、夫婦で夫名義の自宅に暮らし、夫が先に亡くなったケースを想定してみましょう。

 

夫が亡くなった時点では、登記簿上の家の名義は夫のままですが、法律上は妻や子どもなどの相続人に権利が引き継がれます。

 

妻としては、長年住み慣れた自宅にそのまま住み続けたいと考えるのが自然でしょう。しかし、妻が自宅を単独で取得する場合、他の相続人との間で相続分の調整が必要となり、場合によっては代償金の支払いを求められることがあります。

 

そうなったとき、妻の手元に十分な現金がない場合、従来なら泣く泣く自宅を売却し、売却代金を分割するという対応が少なくありませんでした。

 

しかし、それでは配偶者が住み慣れた家を手放さざるを得ず、とくに高齢の場合は過酷です。この課題解決として創設されたのが「配偶者居住権」という制度なのです。

配偶者居住権が有効なケース

では具体的に、どんなケースが有効なのでしょうか? 整理しながら見ていきましょう。

 

●自宅以外の相続財産が少ない場合

たとえば、夫婦で住んでいた家が唯一の大きな財産であり、現金や預貯金がほとんどないケースでは、妻が自宅を単独で相続すると、ほかの相続人に分配する財産が不足してしまいます。

 

そのような場合に配偶者居住権を活用することで、

 

配偶者 → 住み続ける権利(配偶者居住権)

子どもなどの相続人 → 自宅の所有権

 

それぞれを分けて相続させることが可能です。これにより、妻は引き続き自宅で生活することができ、子どもたちも将来的な資産としての権利を確保できます。

 

結果、相続をめぐるトラブルの抑制にもつながります。

 

●家族関係が複雑な場合

配偶者居住権は、家族関係が複雑な場合にも効果を発揮します。

 

たとえば、再婚家庭で前配偶者との間に子どもがいる場合や、配偶者と子どもの関係があまり良好でない場合などです。

 

このようなケースでは、遺言によって配偶者居住権を設定しておくことで、子どもたちが早期の売却を求めるといったトラブルの予防につながります。

 

相続人同士の関係が険悪だと、相続後に配偶者が家から追い出されるといった問題に発展するリスクもありますが、配偶者居住権の設定によって、法的に配偶者の居住が守られます。

 

そうすることで、配偶者は安心して生活を継続することができるのです。

 

●遺産分割に時間がかかる場合

遺産分割協議が長期化する場合にも有効です。

 

また、一定の場合には配偶者短期居住権による保護も受けられるため、当面の居住が確保され、精神的な不安の軽減にもつながります。

配偶者居住権は大きく分けて2種類

配偶者居住権には、大きく分けて「短期配偶者居住権」と「長期配偶者居住権」の2種類があります。

 

短期配偶者居住権は、相続開始と同時に自動的に発生する権利であり、登記などの手続きは不要です。一定期間、無償で自宅に住み続けることができる暫定的な保護制度です。

 

一方の長期配偶者居住権は、遺産分割や遺言によって設定される権利で、長期間にわたり居住を認めるものです。こちらは相続人間の合意や遺言によって成立します。

配偶者居住権は残された配偶者の「住まい」と「生活」を守る制度

配偶者居住権は、残された配偶者の生活基盤を守るために設けられた制度です。

 

先述したように「自宅以外の財産が少ない場合」「家族関係が複雑な場合」「遺産分割に時間がかかる場合」といったケースでは、非常に有効な手段となります。

 

なお、配偶者居住権の成立要件は次のようになっています(民法1028①)。

 

(1)配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと

(2)次のいずれかの場合に該当すること

①遺産の分割※1によって配偶者居住権を取得するものとされた場合

②配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合※2、3

(3)被相続人が相続開始の時において居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと※4

※1 遺産の分割には、遺産の分割の協議のほか、調停又は審判を含みます。

※2 民法第1028条第1項各号に死因贈与に関する規定はありませんが、死因贈与については、民法第554条により、その性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されることとされており、死因贈与によることも認められるとされています(商事法務「一問一答 新しい相続法―平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説」法務省民事局民事法制管理官ほか(2019年3月)より)。

※3 遺産の分割の方法の指定である特定財産承継遺言(民法1014②)によって配偶者居住権を取得させることはできません。

※4 被相続人が居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権を設定することができません。

(出所:国税庁ウェブサイト「1 配偶者居住権の概要 問 「配偶者居住権」の概要を教えてください。」)

 

また、活用にあたっては法的な知識が求められる場面もありますので、「自分のケースではどうすべきか」と迷われた場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

 

 

加陽 麻里布

司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

 

 

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