「看板」が消えて残ったのは、膨れ上がった生活水準
「今月も引き落とし額が、もらった年金を超えている。これじゃ支払いができない……」
かつて電子部品の専門商社で、営業部長として辣腕を振るったSさん(67歳)。スマートフォンの画面に届いた「カード利用代金のお知らせ」を二度見しました。
2年前に定年退職した際、Sさんは誰もが羨む「悠々自適な第二の人生」をスタートさせたはずでした。しかし今、現役時代のタフな印象には似合わず、指先は微かに震えています。
年収1,600万円。いわゆる「勝ち組」の代名詞だったSさんが、なぜわずか2年でここまで追い詰められたのか。そこには、高給取りゆえの「慢心」と、あまりに無防備な「金融リテラシーの欠如」が潜んでいました。
Sさんは、業界でも有名な敏腕営業マンでした。営業部長という役職、そして年間数百万円にのぼる「交際費」。平日は銀座での会食、週末は名門コースでのゴルフ。その支払いのほとんどは会社の経費であり、公私ともに「自分の財布を痛めない贅沢」が、長年当たり前の風景となっていました。
しかし、その華やかさの裏で、家計の実態は「ザル」そのものでした。
「夫は1,600万も稼いでいるのだから」と、家計を任された奥様も夫の収入にふさわしい生活を維持。百貨店の外商を使いこなし、交友関係もハイソサエティ。ママ友との観劇や高級ホテルでのランチは日常で、子供たちには独立してからも資金援助を継続。
Sさん自身、「これだけ稼いでいるんだから、貯蓄や投資なんてセコセコしたことは後でいい」と、忙しい生活のなかで資産形成は完全に後回しでした。
定年退職後、年金の振込額に驚愕
暗転したのは、定年退職後。
「現役時代あれだけ稼いでいたから、最低月40万は年金がもらえると思っていたのに……」
退職と同時に「魔法のカード(経費)」は消滅。さらに、初めて振り込まれた年金額を見て、Sさんは驚きます。
「実際にもらえた年金は、夫婦合わせても約30万円。さらに、手元に残る『振込額』は25万円台。年金にまで税金がかかるなんて……」
所得税や住民税、介護保険料などが天引きされ、実際の振込額が想像以上に低いという事実に直面したのです。
染み付いた高級志向の支出と、高額な住宅ローンの残り、そして想定外の「税・保険料負担」。
「稼ぐ力」に甘え、きちんとライフプランを立ててこなかったツケが、毎月のカード支払いに困窮するという残酷な現実としてSさんを襲っています。
