「最近ちょっと忘れっぽくてね」
家の中に入ると、母は少し困ったような顔で言いました。
「最近ちょっと忘れっぽくてね。鍵の開け方が分からなくなったの」
その言葉を聞いて、玲子さんは胸がざわついたといいます。
「もしかして、認知症が始まっているんじゃないかって」
その後、母を連れてかかりつけの病院を受診しました。すぐに診断が出たわけではありませんが、医師からは「加齢による物忘れの可能性もあるが、経過を見た方がよい」と言われたそうです。
厚生労働省の推計では、日本では認知症の高齢者は2022年時点で約443万人にのぼり、さらに軽度認知障害(MCI)と呼ばれる段階の高齢者も約558万人いるとされています。高齢化が進む中で、家族がこうした変化に最初に気づくきっかけは、日常生活の小さな異変であることも多いといわれています。
その日を境に、玲子さんは実家との関わり方を見直しました。まず玄関の鍵をシンプルなものに交換し、新聞の配達も一度止めました。さらに週に一度は顔を出すようにし、見守りサービスの利用も検討しているといいます。
「母はまだ一人で暮らしたいと言っているんです」
高齢の親が自立して暮らしたいという気持ちは、多くの家庭で共通しています。一方で、家族側には安全面への不安もあります。
総務省の調査でも、高齢者の単独世帯は年々増加しており、家族だけで支え続けることが難しくなっている現実があります。
「正直、どこまで私ができるのか分からないんです」
玲子さんはそう言いながらも、母との距離の取り方を模索しています。
「もし母が電話をしてこなかったら、あの状態に気づくのはもっと遅れていたと思います」
ドアが開かなかったという出来事自体は、小さなトラブルだったかもしれません。しかしそれは、母の暮らしに起きている変化を知らせるサインでもありました。
「玄関で散らばっていた新聞を見たとき、母の生活が少しずつ変わってきているんだと実感しました」
高齢の親との関係は、ある日突然変わるわけではありません。日常の小さな違和感が、少しずつ積み重なっていきます。母からの電話は、玲子さんにとって、これからの親の暮らしを考え直すきっかけになったのでした。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
