息子が来なくなった家で続く「二人きりの夕食」
それから家には、息子が来なくなりました。もともと静かな家でしたが、その静けさが以前とは違って感じられるようになったといいます。
夕食の時間になっても、聞こえるのはテレビの音と箸の触れる音だけです。食卓に並ぶのは、焼き魚と味噌汁、漬物、前日の残り物。二人で向かい合っていても、会話が弾む日ばかりではありません。
「以前は“今度息子が来たときに…”という話もしていたんですが、それがなくなったら、急に家の中が広く感じるようになって」
息子が来ないこと自体が問題というより、「来てくれる前提」で組み立てていた老後の暮らしが崩れたことが大きかったのです。
こうした状況は、特別な家庭だけの話ではありません。内閣府『令和6年版 高齢社会白書』では、65歳以上の人がいる世帯のうち、令和4年時点で「夫婦のみの世帯」と「単独世帯」がそれぞれ約3割を占めており、高齢期を夫婦だけ、あるいは一人で暮らす世帯が主流になりつつあることが示されています。
石原さん夫妻は、最初こそ「親を見捨てるのか」と腹を立てたそうです。ただ、時間がたつにつれ、長男にも長男の生活があることを考えるようになりました。
「向こうも仕事があって、子どもがいて、休みのたびに来られるわけじゃなかったんですよね」
親子が支え合うこと自体は自然でも、その関係が一方通行になれば、どこかで無理が生じます。夫婦はようやく、自分たちの暮らしを「子どもが助けてくれる前提」ではなく、「二人だけでどう回すか」という視点で見直し始めました。
最近は、地域包括支援センターに相談し、買い物支援や見守りサービスの情報も集めているそうです。必要な支援を外に求めることは、親としての敗北ではなく、老後を続けるための現実的な選択だと少しずつ考えられるようになってきました。
それでも、夕方になると妻はふとスマートフォンを見てしまうといいます。長男から新しいメッセージは来ていません。
「仕方ないって頭では分かるんです。でも、二人きりで夕飯を食べていると、やっぱり寂しいんですよね」
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