仕事はあるが「働けない」理由
実際、65歳を過ぎても応募できる仕事は少なくありません。それまでのキャリアを活かせる仕事もあります。山崎さんはハローワークでそうした仕事の紹介を受け、チャレンジを決意しました。
ところが、仕事は長く続きませんでした。入社すると、20代後半の営業リーダーの下につくことになったのです。営業の進め方や報告の仕方を一つひとつ指示される日々に、山崎さんは強い違和感を覚えました。
「頭では分かっているんです。自分は新人なんだから、教わる立場だって。でも……」
かつては部下を抱え、営業会議で指示を出す側だった自分が、年齢が半分ほどの上司に細かく指導される立場になっている。その状況に、どうしても気持ちがついていかず、結局、3ヵ月で退職。
次の候補は、まったくの別業種。シニアアルバイトの定番ともいえる、マンション管理員、スーパーの品出し、警備員、コンビニスタッフなどです。しかし、長年、部下を指導してきた立場だった自分が、 レジに立っている姿や警備服を着ている姿を想像すると、どうしても踏み出せませんでした。
「万が一、元部下に見られたら……そんな想像もしてしまう。くだらないと思われるかもしれませんが、プライドですよ」
働かなければ生活が厳しい。 それでも心のどこかで「そこまでして働くのか」という思いが消えませんでした。そうして、気づけば退職から2年が経っていました。 その間、生活費の不足分や突発的な出費は貯金から補填。口座残高はすでに1,000万円を切っています。
「このペースだと、70代前半で底をつくかもしれない」
家計が厳しいことは妻も分かっています。そのため、今や“夫婦で温泉”どころか、毎日食費を切り詰める日々です。しかし、お互いに働こうとはしません。
「もしも貯金が尽きたらどうなるんだ……」。その「もしも」のときは確実に近づいてきています。それでも、山崎さんは何もできないまま、今日も通帳の残高を眺めています。
老後の就労を阻む“プライド”
老後の生活を考えるとき、どうしても焦点は「年金はいくらか」「貯金はいくらあるか」といった数字に向きがちです。しかし実際には、それだけでは語れない問題があります。それが、長年の仕事で築いてきた立場や自尊心、いわゆる「プライド」です。
現役時代に責任ある立場を任されていた人ほど、その肩書きは強く心に残ります。若い上司の下で働くことや、これまでとはまったく違う仕事に就くことに抵抗を覚える人も少なくありません。働こうと思えば仕事はある――。それでも、その一歩を踏み出せない人がいるのもまた現実です。
しかし、総務省「労働力調査(2024年)」によれば、65~69歳の就業率は53.6%(男性62.8%、女性44.7%)。70~74歳でも35.1%(男性43.8%、女性27.3%)。今や65歳以降も長く働くことは当たり前の時代です。
年金だけでは生活が難しい時代の今、これまでのキャリアや価値観とどう折り合いをつけて、老後働くのか。そこにもまた、多くの人が向き合うことになる現実があるのかもしれません。
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