新規事業開発とは「市場に隠されたルール」を明らかにすること
「新規事業開発」と聞くと、多くの人が独創的な事業アイデアを思いつくことや、新たなビジネスモデルを発明することをイメージします。しかし実際に大きな比重を占めるのは、アイデアに潜むリスクを仮説として立て、その真偽を検証するプロセスです。
「独創的」だと思いつくアイデアのほとんどは、過去に誰かが思いつき事業化を試みています。実際に私たちが支援してきた数多くのクライアントも、最初は「これは新しい」と自信を持って事業アイデアを提案されます。しかしリサーチを進めると、必ずといっていいほど過去の失敗例が見つかるのです。
多様なサービスが存在し、世界中の起業家が日々新たな事業アイデアを模索している現代において、新たな事業アイデアや事業モデルを0から生み出すことは、とても難しいことなのです。
そこで重要になるのは、アイデアを出すことそのものよりも「なぜ過去の挑戦は事業化に至らなかったのか」を突き止めることです。例えば、顧客が納得する価格では採算が合わない、対象顧客が少ない、効果的な集客チャネルがない、といった理由です。
これらを1つずつ検証して対策を立てれば、事業アイデアを実現できる可能性は高くなります。このリスクを検証する作業を進めるなかで、新規事業開発の成否を左右するような事象が潜んでいることがあります。それを私たちは「市場に隠されたルール」と呼んでいます。
市場に隠されたルールとは、例えば次のようなものです。
●今まで顧客に予算がなかったが、市場の変化により大きな予算が生まれ
た
●今まで顧客対象として認識していなかったが、実は大きな市場規模が
あった
●今まで技術的に実現できなかったが、実現できる方法が生まれた
●今まで開発力勝負の市場と思われていたが、実は営業力のほうが重要
だった
これらのルールが一般的に知られていないほど、より多くの収益を独占できます。
1つ目に挙げた「市場の変化による新しい予算」を例にすると、日本の上場企業(東証プライム上場企業)は、金融庁による法改正(「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正)によって、2023年3月期以降の有価証券報告書でサステナビリティへの取り組みを開示することが義務化されました。この「サステナビリティに関する考え方及び取組」が公表された時点から、炭素排出量の定量開示が「決算対応コスト」に組み込まれ、企業には新たに大規模な予算が発生しています。
2つ目の「認識していなかった市場」は、男性基礎化粧品が分かりやすい例でしょう。株式会社インテージが発表した調査結果によると、この市場の規模は2019年の243億円から2024年には438億円へとほぼ倍増しました。従来は「男性はスキンケアをしない」という前提がありましたが、コロナ禍以降は脱マスクの流れの中で「青ヒゲを隠したい」という需要が急増し、潜在的だった需要が顕在化しています。
3つ目は「技術革新」の活用です。例えば、低軌道衛星を利用したインターネット接続は、打ち上げコストが高いため世界規模での普及が困難と見られていました。しかし、再使用型ロケット技術の確立によりStarlinkが数千機の衛星ネットワークを構築し、山間部や洋上でも光回線並みの通信速度を実現しています。
4つ目の「営業力」は、二次元コード決済市場が良い例です。この市場は、当初はいかに使いやすいアプリを作るかが重視され、UX開発の競争ととらえられていました。しかし、PayPayは地方金融機関を巻き込んだ地道な加盟店開拓を全国で展開し、初期3年間の手数料無料化と訪問サポートによって店舗側でのレジ接続のハードルを下げ、小売・飲食店への導入を一気に広げました。さらに最大20%の還元キャンペーンを実施した結果、現在はコード決済(バーコード決済、二次元コード決済など)では圧倒的な約3分の2のシェアを獲得しています。
このような市場に隠されたルールは、リスク検証を進める過程で、市場の解像度が高まった結果見つかっていきます。
リスクは9つにグルーピングされる(リーンキャンバス)
新規事業が失敗するリスクは9つにグルーピングできます。それがリーンキャンバスというフレームワークです。これはアッシュ・マウリア著『RUNNING LEAN』という書籍で解説された、とても秀逸なものです。
リーンキャンバスは次のような図です。
全部で9つあるマスは、新規事業の立ち上げが失敗する理由をグルーピングしたもので、一つひとつが事業化に向けて解決しなければならないリスクを表しています。
9つのマスには優先度があり、優先度の高いマスのリスクから検証していきます。
新規事業開発では、リーンキャンバスの全てのマス(リスク)を検証します。これを『RUNNING LEAN』では「プロダクト開発」と呼びます。
一般的に、プロダクト開発は新しいモノやサービスを作ることを指しますが、実際の市場では「良い製品を作れば売れる」わけではありません。機能が全く同じサービスでも、料金設定によって売れなかったり、販売チャネルを見つけられずに事業化できなかったりします。
リスク(マス)の検証順のセオリー(フィットジャーニー)
リーンキャンバスに含まれる9つのリスク(マス)は、最終的には全て検証しますが、セオリーとしては優先度が高いマスから検証を行います。その中でも、特に重要なマスが5つあります。
それは、顧客セグメント(顧客は誰か)、課題(課題は何か)、独自の価値提案(どんな価値を提供するのか)、ソリューション(どんなプロダクトを作るのか)、チャネル(それをどのように顧客に届けるか)です。
これら5つの検証順番にはセオリーがあり、その検証順をフィットジャーニーといいます。
フィットジャーニーは図表3のフェーズに分かれています。各フェーズでどのくらいの期間と費用がかかるか、図表3の目安を参考にしてください。
フィットジャーニーは、CPFから検証し、とにかく速く、安く失敗しながら、事業内容を変更しつつPMFを目指します。
PMFにたどり着くまでが、いわゆる新規事業開発の「0→1」(ゼロイチ)のフェーズです。
PMFを達成したあとは、完成したプロダクト(製品やサービス)をどのように売るか、そのための資金や人材はどうするかといった戦略へと移っていきます。本書『新規事業開発を成功に導く 超実践 0→1攻略ガイド』ではPMFまでの手順にフォーカスして解説していきます。
ここまでの話をまとめると、新規事業開発を成功させるための手順は次です。
①新規事業開発の失敗リスクをリーンキャンバスで可視化して、9つのマスに仮説を作る
②その中で「顧客・課題・独自の価値提案・ソリューション・チャネル」の5大リスクを優先して検証する
③5大リスクはCPF→PSF→SPF→PMFの順に検証する(=フィットジャーニー)
④検証を進める過程で「市場に隠されたルール」を明らかにする
阿部 拓貴
CINCA代表取締役 社長



