決算書は「税務署に提出するために作る書類」ではない
以前にもお話しした通り、小さな会社の社長は、大半が試算表を見るのが苦手です。ですから決算書ができてくるまで試算表を見ないで過ぎていきます。決算も所詮は税金のためで、「税務署に提出するために作る書類」だと思ってはいないでしょうか。もしそうだとしたら、それは大きな誤解です。
決算書とは、1年間の会社の成績であり、社長の通信簿のようなものです。経営者たる社長の評価書です。
税理士から決算書がくると「金が残ってないのに、どうしてこんなに利益が出ているんだ!」とか、「ちっとも儲かっていないのに、なぜこんなに税金を払うんだ!」とおっしゃる社長の声をよく聞きます。日頃もっと試算表に目を向けていれば、決算書が出てきてから慌てることにはなりません。
決算は決算期末がきたら、それで確定です。後から数字を増やしたり減らしたりするのは、難しいのです。ですから、事前に納税の見積りを立てて、対策を行っていくことが大切です。そのために、ぜひ「10カ月決算」を行いましょう。
「10カ月決算」は、毎期10カ月目の数字に残り2カ月の予想値を加算して、利益や納税額などの予測を立てる方法です。そして、残りの2カ月で、より納得のいく決算になるように対策をしていきます。
損益状況・資金状況・財産状況などを検討して、法人税、法人住民税、消費税の概算を計算し、資金計画を立てます。また、10カ月目でだいたいの決算の見通しが立ちますから、来期に向けてのスタートが2カ月早めに切れることになります。来期の予想や方向性が期中に立てられるというのは、大きなアドバンテージです。
会社の本当の力を表している「貸借対照表」
試算表には、「貸借対照表」と「損益計算書」が載っています。多くの社長がまず一番先に見るのは、損益計算書の「当期利益」です。今期いくら利益が出たかを見て、数字が良ければ安心し、悪ければ悩むといった見方をされることがほとんどです。そして、多分「貸借対照表」にはあまり興味を持っておられません。
ですが、銀行は「貸借対照表」にとても興味を持っています。なぜなら、会社の本当の力を表しているのが、貸借対照表だからです。
損益計算書は、今期1年間の成果を表しています。翌期になれば、まだゼロからのスタートです。
それに対して、貸借対照表は、設立から今期までの蓄積を見ることができます。過去の経営のプラス・マイナスの累積が表れるので、よく「貸借対照表を見れば、会社の歴史がわかる」と言われます。
これまでの集大成としての貸借対照表をどんな〝顔〟に作っていくのか、これが経営者の手腕です。