M&Aクロージング後、きちんと「引き継ぎ」してくれるはずが…「コベナンツ違反トラブル」の実態【M&A弁護士が解説】

M&Aクロージング後、きちんと「引き継ぎ」してくれるはずが…「コベナンツ違反トラブル」の実態【M&A弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業のM&Aにおいて、買主側は旧経営陣による円滑な事業の引き継ぎを期待するのが一般的です。しかし、M&A契約書に役員在任義務に関する記載があっても、実際には旧経営者が十分に対応していないケースが少なくありません。M&Aの際、どのような点に留意しておく必要があるのでしょうか。※本記事は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士、土屋勝裕氏の書き下ろしです。

M&A後の引き継ぎで期待される「円滑な事業の引き継ぎ」だが…

中小企業のM&Aでは、M&A後の一定期間、売主である旧経営者が役員に在任し、事業の引き継ぎや顧客対応に関与すること(役員在任義務=ロックアップ)が規定されるケースが少なくありません。買主としては、事業の実態を熟知した旧経営者が一定期間関与してくれることを前提に、M&A後の混乱を抑え、円滑な事業承継が実現できると期待します。

 

しかし、実務では、この「事業の引き継ぎへの期待」が裏切られ、コベナンツ違反としてM&Aトラブル化する場面が存在します。問題となるのは、旧経営者として、役員在任自体は形式的に継続しているものの、実質的な関与が乏しく、事業運営に支障が生じるケースです。

「役員在任義務違反による業務の混乱」が起こる理由

役員在任義務に関するコベナンツでは、「一定期間、役員として在任する」「円滑な事業の引き継ぎに協力する」といった抽象的な定めが置かれることが一般的です。しかし、売主である旧経営者が在籍していながら、会社を売却した以上、主体的に経営をするインセンティブも働かず、意思決定を避ける、現場対応を行わない、実務を部下任せにするなどの態様が問題となります。

 

買主から見ると、事業運営の中核を担うはずであった旧経営者が実質的に機能しておらず、業務が混乱した以上、役員在任義務違反として責任を追及したいと考えるのは自然です。しかし、M&A契約上、どの程度の関与が義務付けられていたのかが明確でない場合、旧経営者としては居るだけで良いと考えている可能性もあります。

 

このような場合、買主としては、売主である旧経営者に対して、役員在任義務違反として損害賠償請求をすることができればよいですが、同規定は往々にしてそこまで具体的な義務を規定しておらず十分な根拠となりえないケースが少なくありません。

 

なお、たとえそのような状況でも、会社法上の善管注意義務違反を根拠として、損害賠償を請求することが可能となり得ます。

役員在任義務違反による「企業価値毀損」「損害賠償」の対応策

中小企業では、売主である旧経営者や特定のキーマンが事業の中核を担っていることが多く、その退職や実質的離脱が企業価値に大きな影響を与えることがあります。M&A後、これらのキーマンが早期に退職した場合、買主は企業価値が想定よりも大きく毀損したとして、損害賠償請求を検討します。通常の会社法上の役員の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求も検討可能です。

 

とはいえ、役員在任期間やキーマンの在籍がM&A契約上明確に定められていない場合、あるいは旧経営者やキーマンの義務が軽減されている場合には、損害賠償請求をすることが困難な場合もあります。

コベナンツ違反立証と損害算定の難しさ

コベナンツ条項は、M&A後の協力関係を前提とした合意であるため、過度に具体的な義務内容を定めることが避けられる傾向があります。その結果、「誠実に協力する」「円滑な引き継ぎに努める」といった文言にとどまり、そのような場合は、実効性の確保が難しくなります。

 

コベナンツ違反を理由とする損害賠償請求では、義務違反の事実だけでなく、それによって生じた損害と因果関係を立証する必要があります。しかし、旧経営者による引き継ぎ不足による業績悪化や業務混乱は、買主の経営判断や市場環境の変化と複合的に生じることが多く、売主の役員在任義務違反との切り分けが容易ではありません。

 

その結果、「旧経営者の引き継ぎが不十分だった」という評価自体は共有されても、具体的な因果関係を有する損害額を算定できず、損害賠償請求が認められないという結論に至ることもあります。ただ、裁判所としては、そのような場合でも柔軟に対応し、適切な和解が成立することが多い印象です。

売主社長の職務怠慢により損害が拡大した事例

ある中小企業のM&Aでは、売主社長がM&A後も代表取締役として在任することが予定されていました。しかし、実際には重要な取引先対応や社内意思決定を行わず、事業運営は停滞しました。買主は、売主社長が職務を怠った結果、主要取引先との関係が悪化し、業績が大きく落ち込んだとして損害賠償請求を行いました。

 

裁判では、売主社長が形式的には在任していたこと、M&A契約上求められていた関与の内容が具体的に定められていなかったことが重視されました。しかし、職務怠慢との評価は一定程度認められ、会社法上の善管注意義務違反がありそれに基づいて損害が発生したとされ、売主社長は相当額の損害を負担する結果となりました。

まとめ

役員在任義務に基づく「事業の引き継ぎへの期待」は、中小企業のM&Aにおいて重要な意味を持ちますが、その期待が裏切られた場合でも、直ちに損害賠償請求が認められるわけではありません。

 

役員在任義務は抽象的になりやすく、M&A後の引き継ぎを巡るトラブルは、合理的意思解釈として、M&A契約締結時にどこまで具体的に義務内容とリスク配分を整理していたと考えることができるかが、後のM&Aトラブルの結果を左右する点を、実務では十分に認識しておく必要があります。

 

 

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士
土屋 勝裕

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