デューデリジェンスを尽くしたはずなのに…M&A後に問題発覚
中小企業のM&Aでは、買主が弁護士、公認会計士、税理士等の専門家を起用し、デューデリジェンスを実施した上でM&A取引に臨むことが一般的です。そのため、買主としては「必要な調査は行った」「専門家のチェックも受けた」という安心感を持ってM&Aを実行することになります。
しかし、M&A後に想定していなかった問題が発覚し、「調査には限界があった」と感じる場面は少なくありません。実務では、デューデリジェンスを実施していたからといって、すべてのリスクが洗い出されるわけではなく、調査の性質上、どうしても把握しきれない問題が残る構造があります。
また、中小企業のM&Aにおけるデューデリジェンスは、資料の準備やスケジュールの制約が強く、限られた期間内に複数領域を並行して確認することになります。また、確認できない分野も発生します。そのため、重要論点に優先順位を付けた検討にならざるを得ず、全件精査ではなくサンプル調査を中心とした確認にとどまるのが実情です。結果として、調査結果は一定の不確実性を内包したベストエフォートベースの判断材料となります。
デューデリジェンスで発見されなかった問題が後から発覚する場面
デューデリジェンスは、あらかじめ定められた調査範囲と資料に基づいて行われます。そのため、調査対象外とされた領域や、売主から提供されなかった資料に関わる問題については、M&A後に初めて明らかになることがあります。
例えば、過去の労務管理の実態、非公式な合意に基づく取引関係、帳簿に現れない慣行的な支出、内部的な法令違反の認識などは、形式的な資料確認だけでは把握が困難です。これらの問題は、M&A後に顕在化し、買主にとって想定外の負担として現れます。
デューデリジェンスレポートに依拠した判断の限界
中小企業のM&Aでは、専門家によるデューデリジェンスレポートを前提としてM&A価格や条件が決定されます。しかし、専門家レポートは、提供された資料とヒアリング結果を基礎とするものであり、万能な保証ではありません。
実務上、「問題は確認されなかった」との記載は、当該調査範囲内で問題が確認できなかったことを意味するにとどまります。時間的制約の下では追加調査に踏み込めないことも多く、後日問題が発覚したとしても、専門家の責任が直ちに認められるわけではありません。
「売主の情報隠蔽」に対する現実的な限界
デューデリジェンスは売主の情報提供を前提とするため、売主が情報を開示しなかった場合、買主側でそれを完全に見抜くことは困難です。
もっとも、「売主が隠していた」という事情だけで常に買主の救済が図られるわけではありません。開示資料や説明内容、買主側の確認姿勢、調査の深度などを踏まえ、どこまで買主が把握し得たか、あるいは把握すべきであったかが後から検討されます。その結果、情報隠蔽があったとしても、表明保証条項違反による責任追及ができない場面もあります。
デューデリジェンスを補う表明保証の実効性
デューデリジェンスの限界を補う手段として、表明保証があります。
しかし、既知事項や調査過程で認識可能であった事項は表明保証違反であっても補償対象外とされることが多く、免責金額や補償上限も設定されます。表明保証条項も必ずしも網羅的ではなく、問題がすべて救済されるわけではありません。
重大な見落としがあったデューデリジェンスの実例
ある中小企業のM&Aでは、専門家によるデューデリジェンスを経て取引が実行されましたが、M&A後に未払残業代と労働法令違反が発覚しました。調査段階では、労務資料が限定的であり、従業員ヒアリングも形式的なものにとどまっていました。
結果として、買主は未払残業代の支払と是正対応を余儀なくされ、想定していた収益計画は大きく修正されました。デューデリジェンスを実施したつもりであっても、実務上の限界により重大な見落としが生じることがあります。
まとめ
デューデリジェンスは、中小企業のM&Aにおいて不可欠な手続ですが、万能なリスク排除手段ではありません。
調査範囲や時間の制約、資料依存性、検証手法の限界から、把握しきれない問題が残る構造があります。デューデリジェンスの限界を前提とした表明保証条項などの契約設計やリスク配分を検討することが、実務上は重要となります。
弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士
土屋 勝裕
