(※写真はイメージです/PIXTA)

内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によれば、65歳以上の人がいる世帯のうち20.2%は「親と未婚の子のみの世帯」です。こうした成人した子と親との同居は必ずしも問題ではありませんが、生活費負担や自立の遅れが重なると、親の老後設計に影響を及ぼすことがあります。実家同居によって子の貯蓄が増えやすい一方、独立の動機が弱まる構造も指摘されています。

父の葛藤…それでも断ち切れない理由

博さんが「このままではいけない」と感じたのは、亮太さんの貯金額を知ったときでした。

 

「800万円あるなら、一人で暮らせるはずなんです」

 

亮太さんは会社員で、収入は安定しています。家に生活費は入れていますが、家賃や光熱費の多くは両親が負担してきました。その結果、本人は生活水準を落とさず貯蓄を増やせている状態です。

 

「正直に言えば、息子の生活を一部支えているのは私たちです」

 

博さんはそう言います。現役のうちは問題ありません。しかし、定年後は状況が変わります。

 

「年金暮らしになったら、三人分の生活費は出せません」

 

それが、博さんが最も強く感じている現実でした。

 

さらにもう一つの不安があります。

 

「私たちが弱ったとき、今のままでは息子が支える側に回れないんです」

 

本来なら、親が要介護になれば子が支える側に回ります。しかし生活基盤が分離していないままでは、子が独立した生活を築く機会も準備もないまま親の介護局面に入る可能性があります。

 

親子関係は良好です。家の中に軋轢もありません。生活も回っています。だからこそ、問題は見えにくいのです。

 

「出ていけと言えば、関係が変わってしまう気がして」

 

そう語る博さんは、長く言葉を飲み込んできました。

 

「本人が困っていないんです。だから言えない」

 

経済的には安定している。親子関係も悪くない。日常生活も成立している。それでも独立しない――。しかし博さんの頭には、定年後の現実がよぎります。

 

「……いつまでいるつもりなんだろうな」

 

親の老後設計は、子の自立状況によって大きく左右されます。実家同居は合理的で安全な選択でもありますが、親子双方の生活基盤が重なったまま固定化される構造でもあります。

 

博さんは最後に、静かに言いました。

 

「出てほしいんじゃないんです。自分の人生を持ってほしいだけなんです」

 

自立とは、収入の有無ではなく、生活を分けること――その意味を、博さんは考え続けています。

 

 

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