(※写真はイメージです/PIXTA)

一人暮らしの高齢者は増え続けています。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしは2025年時点で男性18.3%、女性25.4%と推計され、今後さらに上昇する見込みとされています。ところが、暮らしの変化は「本人の自己申告」では見えにくいもの。家族が異変に気づいたとき、すでに日常が崩れ始めていることも少なくありません。

独居の増加と、見えにくい「認知機能の低下」

内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしは2025年時点で男性18.3%、女性25.4%と推計され、今後さらに上昇する見込みとされています。一人暮らしの難しさは、「誰かが異変に気づくまで、日常が崩れても表面化しにくい」点です。

 

また同白書では、認知症の高齢者数が443.2万人、MCI(軽度認知障害)が558.5万人と推計されていることも示されています。“診断がつく前”の段階でも、鍵の紛失、火の不始末、服薬ミス、金銭管理の乱れといった形で生活に影響が出ることがあります。

 

美咲さんはその場で父を責めるのをやめました。代わりに、スマホのメモに箇条書きで記録を残します。

 

●鍵が見つからない(前日から)

●空焚き寸前の鍋

●未開封郵便物の山

●服薬袋が床に散乱

●室内の異臭と食品の劣化

 

「お父さん、今日は“鍵を探す日”じゃなくて、“困っていることを整理する日”にしよう」

 

父は不機嫌そうに黙りましたが、抵抗はしませんでした。

 

美咲さんがまず電話したのは、市区町村の地域包括支援センターでした。高齢者の生活や介護・医療の相談窓口で、状況を伝えると、職員は静かに言いました。

 

「一人暮らしで“火の不始末”が出ているなら、早めに動いた方がいいです。まずは受診と、必要に応じて介護保険の申請も視野に入れましょう」

 

介護が必要になったとき、家族だけで抱えるのは現実的ではありません。実際、厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』では、同居の主な介護者の実態が整理されており、介護が家庭内の負担としてのしかかりやすいことが読み取れます。 “何か起きてから”ではなく、“起きかけている段階”で支援のレールに乗せることが重要です。

 

夕方、父の上着のポケットから鍵は見つかりました。けれど美咲さんは、それで安心はできませんでした。

 

「鍵が見つかったからOK、じゃない。次は火かもしれないし、転倒かもしれない」

 

父は小さく笑って、こう言いました。

 

「……騒がせたな。もう大丈夫だ」

 

美咲さんは、笑えませんでした。“本人が大丈夫と言うこと”と、“生活が安全に回っていること”は別物だと、部屋の光景が教えていたからです。

 

独居の高齢者が増える社会では、家族ができることは限られます。けれど、ゼロではありません。責めるでも、取り上げるでもなく、支援につながる場所へ“接続する”。その一歩が、最悪の事態を避ける分岐点になることがあります。

 

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