前回は、住宅営業マンが提示する「収支プラン」の留意点について見ていきました。今回は、相続対策で駅から離れた場所に高賃料マンションを建てた失敗例を見ていきます。

駅から遠いため、デザイン性で差別化を図ったものの…

<東京近郊のJR駅から徒歩12分のところに、父親から相続した100坪の駐車場を賃貸マンションにしたケース>

 

駅から遠いため、「差別化ポイントとして、デザイン性を強調したデザイナーズマンションにしましょう」という建設会社の提案を受け、鉄筋コンクリート造4階建てにすることを決断します。

 

試算された収支計画書は、15坪の部屋が12室で、賃料は周辺相場が11万~12万円なのに対し、デザイナーズマンションということで強気の月15万円に設定します。諸経費込みの建築総費用は約1億7500万円で、「相続対策になる」という金融機関のススメで全額を借り入れることにしました。

 

最終の年間収支は、賃料収入が満室状態を想定した2160万円、借入金返済が年額約730万円(返済期間30年、金利1.6%・変動金利)で、諸経費130万円を差し引いた手取り額は年額1300万円というシミュレーションでした。

 

ところがです。建物が完成し、入居者の募集が始まりましたが、2カ月経っても埋まったのは2戸のみ。地元の不動産業者に聞くと、「相場より3万円前後も高いと、いくらデザイナーズマンションといっても、ムリがある」とのこと。

 

やむを得ず、賃料を相場並みの月12万円に下げて、半年近くかけて何とか満室にすることはできました。しかし、当初の入居者からの賃料値下げの要求も来るわで、収支利回りは当初の期待を大きく下回ることに。1年目の収入は約900万円で計画よりマイナス1260万円で、2年目の収入は1720万円で計画よりマイナス440万円となってしまいました。今後、借入金利の上昇を想定すると、高いリスクを抱えてしまうことになったのです。

市況を調べず、業者の提案を鵜呑みにすると失敗を招く

これはひとえに建設会社からの提案を鵜呑みにし、市況を調べず、家賃を高めに設定してしまったがための失敗です。さらに悪質なことに、金融機関の借り入れについても、収支計画書には将来の金利上昇が見込まれていませんでした。金利リスクをゼロで試算するなどあり得ないことです。

 

住宅メーカーは差別化と称して、高額な設備・仕様プランを提案することがよくあります。また、時流に合わせ、いわゆるサ高住(サービス付き高齢者住宅)、シェアハウス、民泊物件、ペットOKの物件など、付加価値の高い物件を勧めてくるケースもあるでしょう。

 

しかし、いくら高級感のある建物でも、周囲の環境、相場と見合わないものはムリがあります。また、ブームに乗って、物件を建てたはいいが、もしも同じような物件が乱立したら、ブーム終焉後は“お荷物”にもなりかねません。

 

ぜひ経営者マインドを持ち、建物の目指すレベル、形態、そして家賃設定についても「言われるがまま」「任せっきり」は御法度と心得てください。

本連載は、2016年10月9日刊行の書籍『あなたの資産を食い潰す「ブラック相続対策」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

あなたの資産を食い潰す 「ブラック相続対策」

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秋山 哲男

幻冬舎メディアコンサルティング

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