複数部位の障害は一定のルールで等級が繰り上がるが…
事故による損傷は1カ所だけとは限らない。複数箇所に損傷を負う被害者も多い。ところが、どんなに複数の箇所に打撲やムチ打ちなどの症状があっても、それが1カ所だけだった場合と賠償額が一緒だとしたら? 痛みも不自由さも複数障害があるほうがずっと大きいはずである。
ところが補償にはまったく反映されない・・・。交通事故の後遺障害認定では、そんな不条理が現実として存在している。
実は自賠責保険では複数部位に後遺障害が残った場合、一定のルールに従って等級が繰り上がる仕組みになっている。たとえば10級の障害が2つ認められた場合は併合9級となる。8級と7級の2つが認められた場合は併合5級。5級が2つならば3級繰り上がって2級となる。
ところが、である。最下位級である14級の場合はいくつ併合しても繰り上げされないのである。13級以上はすべて併合繰り上げされるのに、なぜか14級だけは別扱いなのである。これに対する合理的な説明はなされていない。我々弁護士も依頼者から質問を受けても「自賠責の基準ではそうなっているから」としか答えようがないのである。
この不思議なルールゆえにさらに奇妙な認定がなされる。併合14級がやたらと多いのである。併合14級とは複数箇所で14級の障害がある場合である。14級がいくら重なったとしても、14級にしかすぎないので被害者にしてみれば賠償される額は変わらない。
もしも再び事故に遭ったら、賠償額の減額が可能に!?
なぜ併合14級がやたらと多いのだろうか?
あくまで推測にすぎないが、14級はいくら認定しても賠償額が変わらないため、どうせどこかの部位を14級として認めるなら、それ以外の部位もできるだけたくさん14級として認めてしまうのだ。
すると、もし今後同被害者が将来的に別の事故に遭ったとき、同一部位をケガしても賠償額を減らすことができる。
前に触れた加重障害の話を思い出してほしい。どんなに症状があっても同一部位に過去に障害認定されていたら、前の障害の等級分を差し引いた額しか賠償されない。障害等級が以前のものより小さいか同じであれば賠償額はゼロなのである。やたらと併合14級が多いのは、そのような思惑があってのことだと考えてしまうのは、考えすぎだろうか。
いずれにしても、そのような疑惑が起こるのも、14級はいくつ併合しても14級のままであるという、自賠責保険の等級認定の問題があればこそだ。ちなみに後遺障害認定のほとんどは14級であることを考えると、14級だけなぜこのような例外的な措置が取られているのか、おぼろげながら見えてくるだろう。