審査基準、責任の所在、組織の内情が「見えない」…
後遺障害の等級認定に関して被害者や我々弁護士が直面するのは、一言で言うならば「見えない」ということである。まず損害保険料率算出機構の認定に関して、その判定基準や理由が「見えない」。
どんなメンバーがどのような審査をしているか、誰が責任を持っているのか、組織の中が「見えない」。どのような書類や資料を提出すれば認定されるのか、後遺障害の認定に必要な要件が「見えない」――。
法的な業務に慣れている弁護士でさえこの問題に関しては手探りの部分がいまだに多い。どこをどう押せば何が返ってくるのか? 問題の本質がどこにあるのか? なかなかはっきりとは見えてこないのだ。それらが見えなければ、こちらとしてどう対抗すればいいか、何を準備すればいいのかも分からない。
しかし、私たち弁護士法人サリュは、2010年から2015年の5年にわたる成果によって、今まで見えなかった闇が少しずつ見えるようになってきた。先ほどの3つの「見えない」部分が次第にはっきり像を結んできたのである。
まず認定の基準だが、自賠責等級表にはない細かい条件や基準があるはずである。これまでそれを相手に問いただしても「公表はできない」の一点張りであったが、さまざまな事例を検証し、そこから自賠責の認定要件を推測すると、ある要件が明確に浮かび上がってくる。
この点について、最近、内部において認定マニュアル、傷病によっては認定フローチャートまで存在しているという確かな情報を入手した。そして同機構の現場で働く誰もがそれを共有しているということが分かった。たとえば冒頭の後遺障害認定で非該当になったケースは、その内部基準に引っかかったのである。
このような内部基準は、損保料率機構の認定者の能力に差があることから、認定結果に不合理な差異が出ないように、内部の均質化を図るために導入されたものだという。
もちろん、法律が同じであっても裁判官によって結果が異なることがあるように、認定者によって、事案によって結果が異なることは当然であろうが、内部基準があることが明確になったことは非常に重要なことである。
詳細な認定基準を公開しない理由
では、なぜそのような詳細な認定基準を公開しないのであろうか。
それは、基準を「悪用される」からというのが主な公開反対の意見であるらしい。等級がほしい依頼者が、わざと基準に沿った申請書を書くことで不当に認定を受ける可能性があるというわけだ。
これは本当だろうか。そのような恐れがあるとしたら、それを選り分けるスクリーニングの方法を考えるべきではないか。
基準を知らないばかりに、適切な後遺障害の認定を受けられないことのほうが現実には多いし、悪意のない人たちがそれによって不利益を被ることのほうがはるかに不公平ではないだろうか。