認知症と相続手続き、避けられたはずの“手遅れ”
相続の準備を考える上で、避けて通れない現実の一つが「認知症」です。厚生労働省の発表によれば、2022年時点での認知症患者数は約443万人(高齢者の約8人に1人)。2040年には認知症患者数は約584万人となる推計で、高齢者の約7人に1人が認知症になるといわれています。
認知症になると、判断能力が低下し、財産管理や契約行為ができなくなります。これは日常生活だけでなく、相続の準備にも大きな影響を及ぼします。
判断能力を失うとできなくなること
相続準備の多くは、本人の意思表示が不可欠です。例えば、遺言書の作成や生前贈与、不動産の売却や名義変更などは、すべて本人の判断能力が前提となります。認知症が進行すると、これらの手続きは法的に無効となる恐れがあり、家族が代わりに行うこともできません。結果として、「やっておけばよかったのに」という後悔が、現実の問題として押し寄せてきます。
後見制度は「最後の手段」
判断能力を失った場合、成年後見制度を利用すれば一定の手続きは可能になります。しかし、後見制度には制限が多く、自由な資産運用や贈与はできません。また、家庭裁判所の監督下に置かれ、毎年の報告義務や費用負担も発生します。家族の裁量は大幅に制限され、結果として望んでいた相続対策ができなくなるケースは少なくありません。
典型的な“遅かった”事例
あるご家庭では、父親が元気なうちに相続対策として賃貸アパートの建て替えを検討していました。しかし、計画を先延ばしにしている間に父親が認知症を発症。融資契約や建築契約に必要な署名ができず、計画は中断。建物は老朽化し、賃貸収入は減少、修繕費は増加しました。結果的に資産価値は大きく目減りし、相続税負担も減らせないまま相続が発生しました。
別のケースでは、母親名義の自宅を売却して施設費用に充てる予定でしたが、契約直前に母親が脳梗塞で倒れ、判断能力を喪失。成年後見制度を利用しましたが、売却までに半年以上かかり、後見人が就くまでの施設費用は子どもたちが立て替えることになりました。
認知症による相続トラブルを避けるポイント
認知症による“手遅れ”を防ぐには、「まだ元気だから大丈夫」という発想を変えることが大切です。
■早めの遺言作成
公正証書遺言であれば形式不備のリスクも減り、安心です。
■家族信託の活用
判断能力があるうちに信託契約を結べば、将来の財産管理を家族に託せます。
■資産整理の前倒し
売却や名義変更など、判断能力が必要な行為は優先して行いましょう。
認知症は突然やって来ることもあります。「いつか」ではなく、「今」動くことが、家族の安心と資産の保全につながります。避けられたはずの“手遅れ”を、あなたの家族が経験しないためにも、元気なうちの行動が何よりの備えです。
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