M&A成立後、粉飾決算、労働法令・業法違反等が明るみに…「表明保証条項違反」トラブル【M&A弁護士が解説】

M&A成立後、粉飾決算、労働法令・業法違反等が明るみに…「表明保証条項違反」トラブル【M&A弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

M&A成立後に企業の業績が伸び悩み、当初想定した収益を確保できなくなった場合、「表明保証条項違反」の問題が顕在化することがあります。業績不振の原因を検証する過程で、売主による説明や開示内容の正確性が問われ、法的紛争へと発展するケースも少なくありません。具体的に見ていきましょう。※本記事は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士、土屋勝裕氏の書き下ろしです。

決算書を信じたが、実態は違っていた──表明保証条項違反が問題となる場面

中小企業のM&Aでは、売主が提示する決算書、試算表、事業説明資料を前提として、買主が企業価値評価を行います。そのため、M&A後にこれらの前提が実態と異なっていたことが判明すると、表明保証条項違反として損害賠償請求が問題となります。

 

決算書に関する問題としては、売上の架空計上や循環取引、棚卸資産の過大計上、簿外債務の存在、引当金計上漏れなどが典型例です。これらはM&A価格の算定に直接影響するため、M&A後に発覚した場合、買主にとっては想定外の損失として顕在化します。実務では、これらの点が表明保証条項に反していたかどうかが争点となり、損害賠償請求に発展するケースが少なくありません。

 

もっとも、問題となるのは粉飾決算に限られません。中小企業のM&Aにおいて頻繁に紛争化するのは、むしろ事業運営の実態に関する説明と現実との乖離です。

事業説明が実態と異なっていた場合の責任構造──未払残業代・未払税金・法令違反・重要情報未開示

実務で最も多く問題となるのは、未払残業代、未払賃金、未払法人税等、源泉所得税、社会保険料の未納、労働法令や業法違反、さらには重要情報の未開示といった類型です。これらはM&A後に買主が直接的な金銭負担や経営リスクを負うことになりやすく、表明保証条項違反として真正面から争われます。

 

未払残業代については、M&A後に従業員から請求がなされたり、労働基準監督署の調査を契機として発覚することがあります。未払税金や社会保険料についても、税務調査や年金事務所の調査により過年度分の追徴が生じたり、買主が負担を余儀なくされたりします。これらはいずれも、M&A前の事業説明では十分に開示されていなかったとして問題となる典型例です。

 

また、係争案件、行政調査、重大なクレーム、取引先との紛争といった重要情報が開示されていなかった場合には、事業の継続性や信用に直接影響を及ぼします。

 

これらは将来の見通しではなく、既に存在していた事実として評価されるため、説明との不一致がそのまま表明保証条項違反の問題となります。

表明保証条項があっても違反を主張できないケース──「リスクを受け入れていた」

表明保証条項違反を巡る紛争では、単に事実が存在したかどうかだけでなく、買主がどの程度そのリスクを認識し、どこまで損失を受容していたかが問題となります。裁判実務では、買主が十分な調査を行わなかった場合に、「表明保証に依拠していた」と評価されるよりも、一定の不確実性や損失が生じることを前提にM&Aを行っていた、と評価される場面が見られます。

 

特に中小企業のM&Aでは、デューデリジェンスの範囲が限定的であることも多く、買主が把握しきれなかったリスクがM&A後に顕在化することがあります。その場合でも、売主が説明すべき重要な事実を開示していなかったのであれば、表明保証条項違反として責任追及を受ける構造自体は変わりません。

「知り得る限り」「重要な」で限定されていても違反を主張できるケース

表明保証条項に用いられる「知り得る限り」や「重要な」という表明保証を限定する文言は、実務上しばしば争点となりますが、表明保証条項違反を知らなかったからといって直ちに売主の免責につながるわけではありません。特に会社の代表取締役については、その立場や職責から、通常知り得たはずであると評価されることが一般的であり、「知らなかった」という主張がそのまま認められる場面は多くありません。

 

また、表明保証を「重要な事項」に限定したとしても、買主が損害賠償請求を行う以上、その事項がM&A価格や事業継続に影響を及ぼす重要性を有していることが前提とされます。裁判実務においても、請求対象とされた事項が重要でないとして退けられる場面は限定的であり、むしろ説明内容と実態との不一致があったかどうかが重視されます。

売主に損害賠償請求が及んだ事例

実務では、未払残業代や未払税金、法令違反の存在がM&A後に発覚し、売主に対して損害賠償請求がなされる事例が多数存在します。ある案件では、売主が「労務管理に問題はない」と説明していたものの、実際には長時間労働が常態化しており、M&A後に未払残業代の請求が相次ぎました。買主はこれらの支払を余儀なくされ、表明保証条項違反として売主に損害賠償請求を行いました。

 

別の案件では、税務上の処理に問題があり、過年度分の追徴課税が発生しましたが、売主はM&Aの際に「特段の問題はない」と説明していました。このように、事業運営の基礎に関わる事項について説明と実態が異なっていた場合、表明保証条項違反として責任が問題となる構造は共通しています。

まとめ

表明保証条項違反トラブルは、M&Aを実行した後に、当初想定していたほどの収益が得られていない、あるいは企業価値を過大に評価して取得してしまったという買主側の後悔を契機として表面化することが一般的です。

 

買主としては、M&A後の業績不振や収益性の低下を受けて、その原因を遡及的に検証する過程で、売主の説明内容や開示資料に問題があったのではないかという疑念が生じ、表明保証条項違反の主張に至る構造が多く見られます。その多くは、未払残業代、未払税金、法令違反、重要情報の未開示といった、M&A後に現実の負担として顕在化する問題に起因しています。決算書や事業説明と実態との不一致があれば、表明保証条項違反として損害賠償請求が問題となり、契約書の文言、説明内容、当時の認識状況が裁判では詳細に検討されます。

 

 

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士
土屋 勝裕

 

 

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