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知識だけではない、「揉めない相続」に必要な条件とは
相続対策というと、節税や不動産活用などのスキームといった手取り額を高めるためのテクニックに目が行きがちです。筆者自身、かつて税理士法人に勤務し、財産評価や税務計算の現場に携わりましたが、そこで気づいたのは「正しい計算」が必ずしも「幸せな相続」に直結するとは限らないということです。
法的に正しい分割案であっても、家族の感情を無視してしまうと、それは新たな火種になりかねません。だからこそ、筆者はFPとして、専門的な知識によるサポートはもちろん、「相続させる人、する人、お互いが安心した気持ちで相続を迎えられる状態」を作り上げることを心がけています。筆者はこうした信頼関係が連鎖した相続を「お互い安心相続」と呼んでいます。
相続は本来、家族を不幸にするものではなく、次の世代につなぐ「大切なバトン」であるはずです。そのバトンを気持ちよく渡せる状況に整えることこそが、本質的な相続対策であり、FPとして筆者がサポートすべき点だと考えます。
“遺産をあてにしない”日々の資産形成が「相続対策」に
ここまで相続の感情面について焦点を当てましたが、実際に相続で揉める家族と揉めない家族の「決定的な差」とは何でしょうか。 それは、相続人自身が将来に対する「お金の不安」を解消できているかどうかです。
もし、相続人が「遺産が入らないと生活が立ち行かない」という経済状況であれば、1円単位での取り分に固執せざるを得なくなるでしょう。これは性格の問題ではなく、生存に関わる問題だからです。実際に「令和6年司法統計年報」によると、相続争いの約76%は遺産額5,000万円以下のごく普通の家庭というデータが公開されています。遺産分割で揉めるという事態は、決して他人事ではないのです。
一方で、自身の自助努力によって経済的な基盤が整っていれば、「きょうだいに譲ってもいい」「母の生活費に充ててほしい」という金銭的・精神的な余裕が生まれます。筆者の場合、将来迎える母の相続においては、基本的にきょうだいに財産を譲る方針を固めています。これはまったく美談などではなく、自分自身が積立投資などで資産形成を行い、「遺産に頼らなくても生きていける」という自信と準備があるからこそできる選択です。
「遺産をもらわなくても、自分も家族も安心して生活できる」。そうした少し余裕のある生活水準を保つことこそが、最強の争続回避術になります。親が元気なうちに話し合うことも、もちろん大切です。しかし、それ以上に「自分自身が自立し、遺産を『命綱』にしないこと」。そうした日々の過ごし方や準備こそが、家族の絆を守るための、遠回りのようで一番確実な方法なのかもしれません。
二村 猛
ファイナンシャルプランナーふたむらたけし事務所 代表
CFP(国際認定ファイナンシャルプランナー)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
宅地建物取引士
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