「私が倒れたら、弟はどうするんだろう。いや…」
美佐子さんは市の福祉課に相談し、生活保護の可能性や地域の自立支援プログラムを案内されています。しかし、実際に本人向けの支援につなげるには、原則として本人の同意や意思表示が必要になります。
「役所も『支援制度はありますよ』と言うけど、弟が動かない限り何も進まない。無理やり連れて行くわけにもいかないし…」
厚生労働省の「生活困窮者自立支援制度」では、就労準備支援や家計相談支援などが提供されていますが、本人向けの支援につなげる段階では“本人の意志”が求められるため、ひきこもり状態が長期化するほどハードルが高くなる実態があります。
最近、美佐子さんは心療内科に通い始めました。眠れない日が増え、肩こりや食欲不振も続いているといいます。
「誰にも言えなかったんです。“弟の面倒見ていて偉いね”と言われても、褒められたいわけじゃない。“もうやめてもいい”って、誰かに背中を押してほしかった」
今後は別居も視野に入れているといいますが、「放っておけない」という気持ちもあり、決断に踏み切れずにいます。
「私が倒れたら、弟はどうするんだろう。…いや、私の心配じゃない、弟の心配をしてる時点でおかしいんですよね」
中高年ひきこもりの支援では、本人支援とあわせて、家族支援が不可欠だとされています。2020年には厚労省が「ひきこもり支援コーディネーター」配置を全国の自治体に求めるなど、相談体制の強化が進められていますが、まだまだ“支える家族”への情報・心理支援は不十分です。
「福祉が動けるのは“本人が困ったとき”だけ。でも実際に困っているのは、こっちなんです」
老後不安、経済的負担、介護や看取りの不安——支える家族にも“人生”があります。「甘え」でも「自己責任」でも片づけられない現実が、いま多くの家庭で静かに進行しています。
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