ホームレスの世界では過去を詮索することはタブー?
「この炊き出しは、毎週やってるんですか?」
さっきもらったチラシを見ればわかりきっていることだが、そう聞くと男性は自分のチラシを私にくれた。いつも来ているのでスケジュールが頭に入っているのだという。
「昔から池袋に住んで炊き出しにもたまに来てたから。あんたみたいに若いときは仕事頑張っていたけど、今より不景気だったから。今の若い人は早く仕事して自分でなんとかしないと。自分のことなんだから。あんたが俺の半分くらい(の歳)しかないのは見てわかる」
一言目から喧嘩腰の男性は、30歳そこらの働き盛りの人間が炊き出しに来ていることに不満を抱いているようだった。
かなり少数派ではあるが、ここに限らず炊き出しの行列には私(32歳)と同年代と思われる人もちらほらいる。
「俺は若いときから年金を積み立てているから。俺らはもう関係ないけど、あんたみたいな人は生活保護を受けるんじゃなくて、仕事してもらわないと困る」
「仕事は何をしていたんですか?」
全員におにぎりとパンを配り終えたスタッフたちが駅の方向へと歩いていく。手には食料が入ったビニール袋を持っている。これから脚が悪くて行列に並べない人たちのためにアウトリーチ(配り歩く)をするのだ。
後ろから付いていけば池袋のホームレス事情がよりわかるかもしれないと考えていたのだが、私の率直な質問に男性がヒートアップしてしまった。
「何の仕事なんて言えるわけがないだろうが。バカだな。だから今の若いのは……。そんな個人情報をあんたに言ったって仕方ないし、言う必要もないだろ。あんたの歳なんかすぐにわかったよ。ちゃんとした大人なら、人にそんなこと聞けないんだよ」
そんなに怒るようなことを聞いただろうか。
「仕事を聞くなんて社会では普通だと思いますが。人に言えない仕事をしていたんですか?」
そんな言葉が喉まで出かかったが、グッとこらえて静かにその場を立ち去った。
「ホームレスの世界では過去を詮索することはタブー」とよく聞くが、これは人による。喜んで話し始める人もいるし、この男性(ホームレスではなさそうだったが)のように、頭に血が上るか、話すことを拒絶する人もいるのだ。自分でも思い出したくないような事情があるのだろう。
アウトリーチをするスタッフたちを急いで探しに行ったが、姿はどこにも見当たらなかった。間に合わなかったようだ。
炊き込みご飯のおにぎりとトマトチーズパンをかじりながら、池袋の街を歩く。だが、人に怒られた直後に食べるメシがうまいわけがない。ただ、それはさっきの男性も同じことである。人を怒った直後に食べるメシもうまいわけがない。少し申し訳ないことをしてしまった。
國友公司
ルポライター
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