新宿都庁下で毎週行われている、都内最大規模の炊き出し
地上48階建て、高さ243メートルの東京都庁がそびえ立つ新宿。その真下にあたる「都庁下」では、都内最大規模の炊き出しが毎週土曜日に行われている。
新宿周辺の路上に暮らすホームレスはもちろん、都内のあらゆるところから生活保護受給者などの生活困窮者が集まり、その数は優に800人を超える。私が取材のため、路上生活をしていた2021年夏は500人程度だったと記憶している。年々、参加者が増えているようだ。
2024年2月、私の自宅のある東新宿駅から都営大江戸線に乗り、都庁前駅へと向かった。すると、同じ車両に見慣れた男の顔があった。日々、都内の炊き出しを巡っている「ペリカン」だ。
よくしゃべる年金保護受給者の男性だが、ペリカンは「某新興宗教の勧誘役」という顔も持つ。炊き出しに集まった人たちを勧誘することで、その宗教団体から手当をもらい、せっせと小遣い稼ぎをしている。そのためか、炊き出し界隈の人々からは胡散臭いイメージを持たれ、「ペリカン」と呼ばれている。
開始時刻ギリギリの到着となりそうだが、あのペリカンがまだ電車に乗っているのなら安心だ。都庁前駅の改札には、ほかにも炊き出しに向かうであろう人たちが何人かいた。
フードデリバリーのリュックを背負う30代くらいの若い男性に、ストロング缶チューハイを片手にフラつく60代と思われる男性2人組。彼らに付いていく形で、私も炊き出しの列に並んだ。50メートルほど後ろに最後尾の旗を持ったスタッフがいるので、私はケツから100番目くらいだ。800人もいたら相当な時間がかかるだろうと踏んでいたが、列が動き出すとものの10分で自分の順番が回ってきた。
ビニール袋に入れて手渡されたのは、アルファ化米(わかめご飯)3袋と、レンジでチンするクリームシチュー1袋、災害備蓄用のビスケット1箱とキュウリ1本。アルファ化米とは、炊いたり、蒸したりした米を急速乾燥したもので、お湯を入れると15分ほどで食べられるようになる。炊き出しで配られる食料としては定番中の定番だ。先頭に並んでいた人たちはすでに2回目をもらうべく、私の後ろに回っていた。
生活困窮者であっても家があれば、自宅にお湯もレンジもあるので、アルファ化米でもカップ麺でも、すぐに口にすることができる。しかし、路上のホームレス生活においては、常にこの「お湯とレンジ問題」がつきまとう。家がないというのは、当たり前のものがない、または使えないことでもある。
そうなると、まず思いつくのが、コンビニに置いてあるポットとレンジを拝借することだろう。しかし、コンビニで毎回、商品を買うことなどできないので、店員の視線を背中に感じながら、しれっと使うしかない。
2年半前、都庁下の路上で私と一緒に暮らしていたホームレス仲間の「黒綿棒」が、当時、こんなことを言っていた。
「君、コンビニでそのアルファ化米にお湯を入れるつもりかい?最初のうちは何も言われないだろうけど、しばらくすると『遠慮してもらえませんか』と言われるよ。それを言われてしまったら、ホームレスとしては素直に受け入れるしかない」
