物価上昇は、悪いことばかりではないが……
ここで、「本当にそんなに厳しいことになるの?」と、疑問に思った方もいるかもしれません。ですので、それぞれの要素について、もう少し詳しく見ていきましょう。
まずは日々暮らしていてもっとも身近に感じる、物価の上昇についてです。最初に誤解のないように言っておきますと、物価の上昇自体は必ずしも「悪」ではありません。というのも物価の上昇が適度であれば、経済活動が活性化する可能性があるからです。
企業の収益が増え、社員の給料が上がり、消費が活発になって……という好循環が起これば、経済は活性化します。経済が成長すれば私たちの暮らしはより豊かになるはずですから、物価が上がることは悪いことばかりではないのです。
ちなみに日本の金融政策を司る日本銀行では、物価上昇の目標(インフレ率)を2%としています。経済成長のため、物価の継続的な上昇(インフレ)をある程度は望んでいるということですね。
「失われた30年」のデフレで長年物価上昇を経験してこなかった私たちですが、今後は物価はある程度は上がるべきもの、と考えていったほうがいいでしょう。
ではそうした考え方を踏まえつつ、私たちに影響する「物価上昇のリスク」についても見ていきましょう。仮に日銀の物価上昇の目標、「毎年2%ずつ物価が上がる」が実現すると、将来の物価はどうなるでしょうか。
現在(1年目)を100として、2年目が102、3年目は102の2%アップ……と計算してみましょう。10年後には、物価は1.22倍。20年後では1.49倍。そして30年後は、実に1.8倍となります。たった2%でも、積み重なると大きいですね。
今、新しいことを始めるべき理由とは
インフレになるということは、単に物価が上がって買いにくくなる、ということだけではありません。本当に怖いのは、現在私たちが持っているお金が、「使わなくても減っていく」ということです。
たとえば、老後のために1000万円を貯めたとします。すると20年後には1000万円÷1・49ですので、約670万円まで価値が下がります。同様に30年後には、じつに約550万円にまで目減りします。たとえ全く無駄遣いをせず、むしろ節約に節約を重ねたとしも、あなたのお金の価値は約半分に減るのです。
物価上昇とインフレが続くことのリスクについて、お分かりいただけたでしょうか。今の時代、お金を銀行預金にしているだけ、ということは、「30年後に自分のお金の価値がほぼ半分になることを、受け入れている」のと同じことなのです。
ただ働いているだけでは、むしろ貧しくなってしまう。これはとてもショッキングなことですね。そうならないためにも、今こそお金の価値の目減りに対抗して、新しいことを始めるべきときなのです。
永江将典
公認会計士・税理士
