前回は、MS法人を設立して資産防衛に成功した病院経営の事例を取り上げました。今回は、「一般社団法人」と「信託」を活用した節税の手法を見ていきます。

所有権とは別に受益権を設定できる「信託」

〈ケース4〉一般社団法人による信託の利用

「信託」というと、信託銀行が扱う金銭信託や証券会社などが販売している投資信託を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、いまはさまざまなパターンの信託があり、相続対策に利用することができます。

 

信託の仕組みは、基本的に三者によって成り立ちます。

 

財産を預ける「委託者」、財産の管理・処分を任される「受託者」、信託の目的に応じて利益を受ける「受益者」です。場合によっては、委託者と受託者が同じである「自己信託」(受益者は別人)、委託者と受益者が同じ「自益信託」(受託者は別人)もあります。

 

信託の最大の特徴は、所有権とは別の権利関係(受益権)を設定できることです。つまり、委託者が所有していた財産を受託者に移して管理・処分を任せるとともに、信託した財産が生む利益を受け取る「受益権」については、受益者となる主体や期間などいろいろ自由に設定できるのです。

 

こうした特徴を活かし、家族間での資産管理や相続対策、事業承継といった問題をオーダーメイドで解決する信託を「家族信託」と呼びます。これは法律などでの正式な名称ではなく、あくまで一般的な呼称です。

資産をみなし贈与として親族に権利を渡すことも可能

我々がよく提案するのは、この家族信託における「受託者」として、一般社団法人を利用する方法です。なぜ一般社団法人を信託の受託者として活用するかというと、信託銀行や信託会社は、オーダーメイドのような柔軟なスキームは構築してくれないからです。

 

まず、資産家の方やその家族を理事とする一般社団法人を設立します(設立はさほど難しくありません)。この一般社団法人を受託者として、資産家の方(委託者)が所有する資産の一部を信託します。受益者はご家族です。

 

信託における課税関係については、信託された資産の所有権が誰にあるかではなく、経済的利益が誰に帰属するかに着目し、通常は「受益者」が信託財産を所有していると“みなし”、受益者に課税します。

 

たとえば、ある種の金融商品を委託者が委託し、一般社団法人を受託者、親族を受益者として信託すると、その金融商品の評価は大きく時価を下回ります。その大きく減価された評価額によって、親族に資産をみなし贈与として権利を渡すことができます。資産の管理・処分についても、お子さんが理事の一般社団法人が受託者として行うので安心です。

 

この一般社団法人を使った信託については、最近、ある地主の方に提案したケースがあります。金融商品に信託を設定し、多額の節税を果たすことに成功しました。

 

【図表】一般社団法人による信託の利用

再婚相手に財産を残す方法は、状況にあわせて検討する

〈ケース5〉再婚相手へ財産を残す

成功した企業経営者の方には、なぜか再婚が多いようです。

 

再婚というと、前妻とのお子さんとの関係があります。50代以降に再婚するとなると、将来の相続をめぐって、前妻のお子さんと後妻の方が対立することが少なくありません。そのため、「新しい伴侶に財産を残したいが、どうしたらよいのか分からない」という悩みを抱えることになりがちです。

 

お子さんとの利害を調整した上で、再婚相手の方にスムーズかつ確実に財産を残すためのスキームには、様々な方法があります。状況にあわせ検討していくとよいでしょう。

本連載は、2016年5月25日刊行の書籍『資産防衛の新常識』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

資産防衛の新常識

資産防衛の新常識

江幡 吉昭

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の増税、マイナンバー制度や出国税の導入など、資産家を取り巻く状況が年々厳しさを増していくなか、銀行や証券会社が販売手数料を目当てに、「資産防衛のサポート」と称して富裕層に群がっている現状…。資産家が金融営…

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