●パウエル議長は、労働市場のバランスは特異な状態で下振れリスクの高まりを示唆していると発言。
●またパウエル議長は、関税の価格上昇圧力がより持続的な物価上昇を引き起こす可能性も指摘。
●市場は政策スタンス調整の正当化発言を9月利下げ示唆と受け止めるもデータの見極めは必要。
パウエル議長は、労働市場のバランスは特異な状態で下振れリスクの高まりを示唆していると発言
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月22日、経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で講演を行いました。市場では、パウエル議長が今回、労働市場と物価の現状および今後の見通しについて、どのような見解を示すか、また、それを踏まえた上で、どのような金融政策スタンスを示すかに注目が集まっていました。以下、パウエル議長の発言内容を整理していきます。
はじめに、労働市場について、パウエル議長は「全体としてバランスがとれているようにみえるが、これは労働の供給と需要の両方が著しく鈍化した結果生じた、特異なバランスの状態」との認識を示しました。また、「この異常な状況は、雇用に関する下振れリスクが高まっていることを示唆している」と述べ、「これらのリスクが現実のものとなれば、急激な人員削減と失業率の上昇という形で、急速に表面化し得る」と発言しました。
またパウエル議長は、関税の価格上昇圧力がより持続的な物価上昇を引き起こす可能性も指摘
次に、物価について、パウエル議長は「関税の消費者物価への影響は現在明確に表れている」、「これらの影響は今後数カ月かけて蓄積されると予想されるが、時期と大きさについては高い不確実性がある」との見解を示しました。また、「合理的な基本シナリオは、関税の影響が比較的短期間であること、すなわち、価格水準の変動が一時的にとどまることである」と指摘しました。
しかしながら、パウエル議長は「関税による価格上昇圧力が、より持続的な物価上昇を引き起こす可能性もある」と述べ、具体例として、物価高で実質所得が減少した労働者が、雇用主に賃上げを要求し、賃金上昇とさらなる物価上昇という悪循環が発生するケースや、期待インフレ率が上昇し、それに伴って実際の物価も上昇するケースを挙げました。ただ、現時点でこれらのケースが実現する公算は小さいとの認識を示しました。
市場は政策スタンス調整の正当化発言を9月利下げ示唆と受け止めるもデータの見極めは必要
以上を踏まえ、パウエル議長は「短期的に、物価のリスクは上振れ方向に、雇用のリスクは下振れ方向にあり、困難な状況」としたものの、失業率などが安定しているため、政策スタンス変更の検討は慎重に進めることができると発言しました。ただ、「金融政策が引き締めの領域にあるため、ベースラインの見通しと、リスクのバランスの変化は、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と明言しました。
8月22日の米国金融市場は、「政策スタンスの調整を正当化する可能性」との発言を9月の利下げ示唆と受け止めた模様で、年内の利下げの織り込みが進み(図表1)、長期金利低下、ドル安、株高の反応となりました(図表2)。ただ、パウエル議長は、データに基づいて政策を判断する姿勢から「決して逸脱しない」とも強調しており、改めて8月分の米雇用統計と消費者物価指数(それぞれ9月5日、11日に発表)の見極めが必要と考えます。
※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2025年8月ジャクソンホール会議レビュー【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト
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