今回は、リーマン・ショックを受けて強化された世界の金融規制についてお伝えします。※本連載は、瀬良礼子氏をはじめとした三井住友信託銀行マーケット事業によって2016年3月に刊行された『第6版 投資家のための金融マーケット予測ハンドブック』(NHK出版)の中から一部を抜粋し、「金利」「為替」「景気」の見方・読み方をご紹介します。

米国の金融規制改革法(ドッド=フランク法)の概要

2008年9月に起きたリーマン・ショックは、「大き過ぎて潰せない」金融機関の問題や金融システム全体の脆弱性を浮き彫りにした。また、巨額の公的資金を使った銀行救済は世論の銀行批判を強めた。こうした状況に対処するべく、世界中の金融当局は危機再発防止のための金融監督体制再構築・規制強化に動いた(図表1参照)。なかでも、特に影響が大きいものは、2010年に成立した米国の金融規制改革法(ドッド=フランク法)とバーゼル銀行監督委員会によるバーゼルⅢである。

 

《ドッド=フランク法》

①システミック・リスクの監視強化

金融安定監視委員会(FSOC:Financial Stability Oversight Council)設立。FRBはこの委員会のメンバーとして、金融市場と金融機関全体を包括的に監視することが可能となった。

 

②「大き過ぎて潰せない」問題に対処する方策

・金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)による世界的な金融システムの安定に欠かせない大手金融機関(G-SIBs:Global SystemicallyImportant Banks)の認定(2014年現在、28行)。これらの金融機関に、通常より1〜2.5%上乗せした高い自己資本比率を課すことを定めている。これはバーゼルⅢの自己資本規制として2013年以降で順次適用されている。

・ボルカー・ルール規制として、銀行およびその関連会社によるリスクの高い「自己勘定取引」を行うことを禁じる。ヘッジファンドおよびプライベートエクイティファンドへの投資の禁止も含まれる。

 

③破綻金融機関の清算処理法確立およびFRB権限拡大

FRBの監視・規制強化を目的として複雑な大手金融機関に対してFRBによるストレステストを義務付け。連邦預金保険公社(FDIC)に対して金融機関を秩序ある破綻に導く権限(Orderly Liquidation Authority)を付与。

 

④金融商品に関する消費者保護

住宅ローンをめぐる消費者保護の目的で消費者金融保護局(CFPB:Consumer Financial Protection Bureau)を新設。

 

⑤デリバティブ商品に対する透明性確保

デリバティブ取引の規制当局への報告義務付けおよび「中央清算機関」と呼ばれる第三者を通じたデリバティブ取引への義務付け

 

なお、欧州版ドッド=フランク法として、欧州証券市場監督局(ESMA:European Securities and Markets Authority)によるEMIR(EuropeanMarket Infrastructure Regulation)が2012年7月に発布された。

国際的な銀行の健全性の維持を目的としたバーゼルⅢ

《バーゼルⅢの概要》

バーゼルⅢは段階的に適用され、2019年に最終目標が適用される予定である。

 

〈自己資本に対する規制〉

①自己資本規制比率

総自己資本比率/リスクアセット=8.0%(G-SIBs認定行は上乗せとして1.0%~2.5%が要求される)

②レバレッジ比率

Tier1/総エクスポージャー(リスクウェイトを加味しない)≧3.0%

 

〈流動性に対する規制〉

③流動性カバレッジ比率(LCR:Liquidity Coverage Ratio)

適格流動資産/30日間のストレス期間の純資金流出額≧100%

④安定調達比率規制(NSFR:Net Stable Funding Ratio)

利用可能な安定調達額/所要安定調達額≧100%

 

こうした様々な金融規制導入により、想定外の負荷が市場にかかるケースが出てきている。特に、リスクウェイトを加味しないレバレッジ比率規制の影響は大きく、元本金額の大きいレポ市場の流動性に大きな影響を与えている。また、流動性供給役のプライマリーディーラーもバランスシート制約で証券の在庫を持ち難くなっており、社債市場の流動性を著しく落とす原因となっている。ボルカー・ルールでは、市場の潤滑油となるはずの投機筋の動きが抑制され、結果的に様々な市場で流動性の枯渇が見られており、時に市場価格の大きな変動を生む要因となっている。

 

[図表1]リーマン・ショック以降の金融規制の主な取り組み

本連載は2015年秋までの情勢(金融市場、金融政策・為替政策などの動向、経済・金融に関連する統計)に基づいて編纂されています。

第6版 投資家のための 金融マーケット予測ハンドブック

第6版 投資家のための 金融マーケット予測ハンドブック

三井住友信託銀行マーケット事業

NHK出版

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