そもそも曖昧な「景気」の概念
「景気」は実に曖昧な概念であり、その定義づけは容易ではない。日本銀行によると、景気とは「実体経済の状況に加え、企業や家計の経済活動に対するマインド(意識、受け止め方)を表す言葉」を指す。つまり、経済活動の物的および精神的現象の双方を包摂する概念、ということになり、ますます捉えどころがない。
しかしながら、その概念上の曖昧さにもかかわらず、「景気」はわれわれの経済生活や経済活動について最も現実感をもって語ってくれる言葉となっている。以下では、まず景気および景気循環の見方を説明したうえで、主要な景気関連指標を概説し、戦後日本の経済の歩みを振り返ることで、景気循環についての具体的なイメージの形成を図る。
「水準」と「方向」で捉える景気循環
景気の現状を認識し分析すること、さらに先行きを予測することは、金利や為替、株価を考えるうえで、論じるまでもなく大変重要である。もっとも一口に「景気」といっても、これを捉える視座には「水準」と「方向」という2つの基準があることに注意したい。
「水準」による基準とは、「正常な経済活動水準」あるいは「適正成長率」というものを想定して、それよりも上であれば「好況」、逆に下であれば「不況」と呼ぶものである。簡単にいえば、景気を「良い」「悪い」で捉える方法である。さらに、1循環を「好況」「後退」「不況」「回復」に4分割する見方もある(「シュンペーター方式」という。図表1参照)。この基準は一見便利なようだが、何をもって「正常」あるいは「適正」とするのかは容易ではない。
一方、「方向」による基準は、経済活動が最も活発な時点を「山(ピーク)」、逆に最も停滞している時点を「谷(ボトム)」とし、谷から山までの局面を「景気拡張(上昇)局面」、山から谷までを「景気後退(下降)局面」とするものである。言い換えれば、景気を「良くなっている」「悪くなっている」で判断する方法である。
いずれの方法にせよ、景気には循環性があることがこれまで多くの経済史研究で確認されている。教科書的には、期間の長い順から「コンドラチェフ波」(50〜60年)、「クズネッツ波」(20年程度。建築循環)、「ジュグラー波」(10年程度。設備投資循環)、「キチン波」(3〜4年。在庫循環)の4波動があげられる。
日本の景気については、内閣府経済社会総合研究所が、後述の「景気動向指数」をもとに、事後的に「景気基準日付」というものを設定しており、これが公式の景気循環となっている。景気基準日付は、主にマクロ経済の「方向」から景気の転換点(山、谷)を定めたものである(図表2参照)。ただし、景気基準日付はその「事後性」ゆえに、景気の転換点を過ぎてから数年経過しないと正式発表されない、というタイムラグの問題を抱える。
[図表1]景気局面の概念図
[図表2]戦後日本の景気循環