「残代金の支払いは納品後」という契約が効果を発揮
前回の続きです。ここでまた、少し別の事例を説明しておきましょう。
XB社はベトナムの工場に女性用の靴の製造を委託し、それを日本の顧客に納品するという事業を行っております。すでに複数のベトナムの工場と取引がありましたが、今回新たにV社を取引先と決めました。
取引開始の決め手となったのは、V社が欧米のアパレルブランド企業からも製造委託を受けており、品質や納期管理に信頼が置けるはずだと思ったからです。XB社としてV社とは初めての取引ということもあり、比較的安価で製造できるスニーカーを3,000足(約500万円分)ほど発注しました。
しかしながら、運の悪いことに製品の納期前にベトナムが旧正月の長期休暇に入ってしまいました。また休暇後もV社は工員が十分に確保できませんでした。
この結果、納期遅延になることが確実になってしまいましたので、XB社は急遽、発注した製品の30%(900足)をベトナム内の他の委託先工場に製造させたり、輸送方法を航空便に切り替えるなどして納期遅延を何とか回避しようとしました。
この結果何とか取引先への納期遅延は免れたものの、XB社の当初の想定よりも大幅に追加コストがかかってしまいました。
また、V社が何とか自ら納品した70%(2,100足分)についても、納期遅れを取り戻そうと急ピッチで製作させたため、欠陥品が多くXB社の顧客から返品クレームが相次ぐ事態となってしまいました。
XB社は、発注時に前払代金40%(200万円)をすでに支払っていましたが、残代金60%(300万円)は納品後の支払いという約束になっていました。
損害を「代金減額」の形で償わせることに成功
このため、XB社は、V社に残代金60%(300万円)から追加コスト(約200万円)を差し引いた金額(約100万円)のみを支払い、それ以上の支払いは拒絶する旨の通知書を送りました。
契約書においては紛争解決機関を日本の裁判所と指定していましたが、その後、V社から日本で裁判などを起こされることはありませんでした。
XB社は、納期遅れや欠陥品クレームにより顧客に対する自らの信用に傷がついてしまったので、結果としては必ずしもハッピーではありません。しかし、少なくとも自らが被った損害を相手方に代金減額の形で償わせることができました。