(※画像はイメージです/PIXTA)

「研究者自らの自由な発想に基づく学術研究を推進する」と謳う科学研究費助成事業(通称「科研費」)。大学教員が苦労して獲得した研究費も、実際には大学の会計に組み込まれ、自由には使えません。研究費であっても飲み会の費用には使えず、赤字は自腹になることもあります。本記事では、政治学者で神戸大学大学院国際協力研究科教授の木村幹氏の著書『国立大学教授のお仕事——とある部局長のホンネ』(筑摩書房)より一部を抜粋・再編集して、科研費について解説します。

大学が追い求める多様な「外部資金」

大学が応募し、獲得に奔走する外部資金はきわめて多様であり、それ以外にも、何かしらのシンポジウムやイベントを行う際の寄付や、外務省等が有する海外からの留学生を呼び寄せるための奨学金、さらには企業その他の団体からの出資による「寄付講座」の設置などがある。

 

資金の獲得には多大な準備が必要であり、日頃から社会的人脈を広げて情報を収集し、応募が開始されると同時に膨大な量の書類を書かなければならない。プロジェクト実施のために経費を獲得すれば、そのプロジェクトを計画通りに実施する必要があり、出資元に提出する報告書を作成し、「評価」を受ける作業も必要だ。仮にプロジェクトが上手くいかず、評価が低ければ、翌年から資金を打ち切られる可能性だって生まれてくる。

 

執行ミスが起これば、使ってしまったお金を返金するという悲劇的な事態も訪れる。そもそも「外部資金」を取ってきたからといって、その作業に従事した人の給料が増えるわけではない。それでも大学教員が「外部資金」の獲得に走る理由の一つは、その経費の一部が大学本部や部局の運営に回るからである。たとえば、科研費においては、研究に直接使う「直接経費」に加えて、その30%に相当する金額が「間接経費」として国から支給され、大学本部や部局の運営に使われている。研究のためには、大学の設備や事務職員の労働を使わねばならず、そのための経費に充てる、というのが公の説明である。

 

他方、「間接経費」に当たる金額が予定されていない民間等からの「外部資金」の場合には、全体金額のうちの一定割合が、大学の本部や部局の運営に充てるべく、大学側に差し引かれる制度もある。これを「オーバーヘッド」などと呼んだりする。たとえば、とある教員が民間団体から外部資金を500万円獲得したとしよう。その教員が勤める大学の定める「オーバーヘッド」の割合が20%なら、100万円が大学に差し引かれ、実際に研究に使える経費は残りの400万円だけ、ということになる。

 

筆者の勤める部局は相対的に「外部資金」の取りにくい社会科学系の小さな部局であるが、予算全体に占める外部資金の割合は、科研費の「間接経費」だけでも運営に使える経費の10%近くにも達している。だからこそ、毎年多くの「外部資金」の応募結果が発表される時期に、各大学の部局長はその結果を固唾をのんで見守ることになる。なぜなら、それがどれくらい得られるかによって、その年の部局の運営に大きな影響がでるからである。

木村幹
政治学者

※本連載は、木村幹氏の著書、『国立大学教授のお仕事——とある部局長のホンネ』(筑摩書房)から一部を抜粋して紹介します。

国立大学教授のお仕事

国立大学教授のお仕事

木村 幹

筑摩書房

採用、出世、お金、働き方、人間関係、進まないDX化…… ぜんぶ見せます! 時は1993年。若き政治学者・木村幹(27歳)は、愛媛大学法文学部に助手として採用された。「雇用の安定した国立大学に就職し、研究に集中したい…

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