イノベーション・インデックスでは世界25位
まず、中国製造業の競争力の現状をどう見るかだ。例えば、企業革新専門のある米国学者は、中国は巨額の政府補助金、安価な労働力と緩い規制で製造業の優位性を維持してきただけで、「中国製造2025」(以下、計画)に基づいて巨額の投資をしても、次世代製造業の競争力は強くならないとし、中国内のロボットの75%は外国企業から購入したもの、コア部品は日本に大きく依存していること、現在ロボット生産している中国企業の半分も生き残れないとの各種調査結果を示した上で、最大の弱点は教育と専門的な人材の不足で、今後5〜10年、中国から米国に製造業が回帰することは疑いないとしている(2016年8月26日付ワシントンポスト)。
他方、世界知的所有権機関(WIPO)等が作成するグローバルイノベーションインデックス(GII)で、中国が2016年、中所得国として唯一トップ25に入ったこと、また国産チップのみを使用した世界最速スーパーコンピューターの神威(サンウェイ)、遺伝子組換や大数据等の例を挙げ、先端技術や専門人材の面で中国は先進国に追いつき、一部産業では追い抜きつつある証拠が数多くあると正反対の見方をする論調もある(2016年8月31日付フォーブス)。
図表 グローバルイノベーションインデックス(GII)トップ25(2016年)
中国企業の動向を警戒する台湾・韓国企業
計画にはコア部品国内調達比率の詳細な定義はないが(中国語原文では「核心基礎零部件の自主保障」と記述されている)、これを引き上げる目標について、あるハイテク製造日系企業関係者は、達成不可能な目標ではないが、中国としては、その際、それが、日米、台湾などが複雑に絡んだ国際分業、サプライチェーンにどう影響してくるかを考慮する必要が出てくること、また世界では絶えず創新が起こっていることから、現状レベルに追い着くだけでは不十分という問題があること、また連載第2回で示した図表1の目標は、現状レベルが低いため達成は容易と思われるが、情報技術と製造技術の融合を示す指標に端的に見られるように、一部、指標自体が最先端でないことを指摘している。
総じて、計画は希望的目標を描いただけでその実現は未知数、今後各地域での研究開発や人材育成での具体策を見極める必要があるとする指摘が多い。また海外の大きな関心は、計画が外国企業にとっていかなる意味を持つかだ。中国企業が先端分野で国際競争力を増すことは、いずれ大きな挑戦となる。その点では、現状、日系企業より台湾や韓国企業の方が計画をより深刻に捉えている印象が強い。特に当面、すでに中国に進出している外国企業にとって、中国消費者の嗜好や国内規制に詳しい地元企業がその競争力を高めてくることは大きな脅威となろう。
他方で今後、10大重点領域への投資が見込まれ、外国企業が供給する部品への需要増も見込まれること(コア部品の国内調達比率を計算する際、外国企業も一部資本参加していても、中国企業として登録されている場合、また、中国企業と外国企業の共同企業体JVは含まれる可能性がある)、さらに長期的に見て、産業構造の高度化に伴って企業のガバナンスが向上し、全体として中国のビジネス環境が改善すれば、それは外国企業にとっても、当然歓迎すべきことだろう。