前回は、先端技術分野における中国の国際競争力について取り上げました。今回は、中国製造業の発展に不可欠とされる国有企業改革について見ていきます。※本連載は2015年に中国国務院が発表した製造業の今後10年間の戦略計画「中国製造2025」に関して、その概要を紹介するとともに、計画成否の鍵を握る要因について探っていきます。

資金と人材は豊富だが、経営は非効率な国有企業

「中国製造2025」(以下、計画)の計画実行にあたって鍵を握る大きな要因のひとつは、国有企業(国企)改革がどのように進み、国企が計画にどう関わっていくかだ。中国ではこれまで、諸外国と比較しても、決して少なくない研究開発投資が行われてきたが(OECD推計で2012年2570億ドル、対2008年比倍増、米国は3970億ドル、EU全体2820億ドル)、それが具体的な創新に繋がってこなかった。

 

その大きな理由は、企業家精神に欠け、経営が非効率な国企を中心に投資が行われてきたためと言われている(中国国家統計局の公表数値でも、2016年1〜11月、私企業の利潤対営業収入比、百元資産当たり営業収入が各々5.76%、183.4元に対し、国企は5.27%、57.9元と低く、また、負債の対資産比は私企業51.1%に比べ、国企は61.6%と高い)。計画の下での投資も引き続き国企中心となる可能性は高い。

 

他方で、国企は豊富な資金と人材を有し、外国企業との競争で決定的な役割を果たしており、その創新能力を過小評価すべきでないとの見方もある(2015年9月2日付長江商学院他)。

 

【図表】国有企業と私企業、効率性比較

】国有企業と私企業、効率性比較
(注)国有控股企業は国家統計局の分類で、国が50%以上を出資する国有絶対控股企業、国の出資は50%未満だが出資比率は最大である相対控股、および最大の出資者ではないが、実際上国が支配している協議控制の合計。
(出所)中国国家統計局2016年1月27日、12月27日付プレスリリース

 

 

2015年9月、国務院と党中央委が公表した国企改革の重要文書「国企改革深化に関する指導意見」、および、それに基づく関連文書(「国務院国企改革1+N文件体系」と称されている)は「混合所有制」の推進を目指している。これら文書に基づき、16年中、92%以上の国企が組織改革に着手、68%が混合所有制に移行、4企業が市場での役員公募を実施した。また、国企の自主性を高める観点から、国有資産監督管理委員会(国資委)は21項目の許認可事項を廃止または権限委譲し、33の規則関連文書を廃止した他(以上、2016年12月11日付人民日報、12月28日付経済参考報他)現在、国資委、国有資産運営会社など国企管理監督部門の権力・責任のネガティブリストを含む明細(清単)を策定中という(2017年1月6日付経済参考報)。私企業を取り込んで、こうした改革が進むと、国企の創新能力が向上する可能性はある。

 

他方で、2015年9月文書は、共産党の国企への関与を強め、また合併再編でより巨大な国企を設立し、競争的領域にも国企が参入できることを明記している。中央直轄国企数は14年112から102へと減少しているが、それは国企が別の国企を吸収合併しているものだ(注1)。2016年12月初に開催された全面深化改革領導小組(注2)でも、提起された重要議題は、党や政府の国企、国有資産に対する管理監督を一層強化することだった(2016年12月6日付第一財経)。

 

さらに、国企改革には「冷熱不均」、中央国企と地方国企、また地域によって温度差、進捗度合の差が大きく、小規模で機動性の高い地方国企に比べ、総じて規模が巨大で管理部門も多い中央国企の改革は進んでいない。また経営状態が悪くない国企は、かえって改革意欲に乏しい。地域別に見ると、「老工業地域」と呼ばれる東北部では、国企就業者が多いことに加え、景気低迷というマクロ環境、財政難を抱える地方政府の実行能力の問題などが重なって、改革スピードが遅いという。これら改革に伴う数多くの困難は「絆脚石(足手まとい)」、「攔路虎(漢方薬に使われる茎が細長い植物で、道路の通行の障害になる)」と揶揄されている(2016年12月28日付経済参考報)。国企改革が国企の経営効率化、民営企業の拡大につながるかどうかは未知数な面が大きい。

外面上は「市場主導」を掲げているが・・・

市場と政府の関係について、日本の過去の例を見ても、政府の関与は必ずしもマイナスというわけではなく、むしろ注意すべきは米国等によく見られる市場万能主義だろう。ただ中国では、政府の関与がいかなる形で行われていくかに注意する必要がある。

 

各地方政府は以前から産業別投資基金、中小企業発展基金、貧困地区発展基金等を設立、さらに国務院は2015年1月、ベンチャー企業育成や創新投資促進を目的に国家新興産業創新投資引導基金(400億元規模)を設立(類似の基金は1999年、上海市が設立した上海創業有限公司に遡り、その歴史は古い)、2015年に各地方政府が新たに設置した政府引導基金は297、管理資本総額は1.5兆元、各々14年の2.8倍、5.2倍に増加している(「政府创业投资引导发展基金:现实,困境与趋向」百端信托有限公司,2016年第3季度信托业分析报告)。これら基金の基本的機能は投資資金の補助だ。

 

しかし、上海市が本年2月設立した国内初の天使(エンジェル)投資のみを対象とした天使投資引導基金は、シードステージ(プロジェクト準備段階)の投資は最大60%、アーリーステージ(ベンチャー設立直後の初期段階)は30%まで、また1プロジェクト300万元、1投資家600万元を上限として、投資損失を市が補てんするものだ。

 

上海市はエンジェル投資の環境改善、リスク低減のためと説明しているが、中国内でも批判がある。投資インセンティブを歪め、新たな腐敗汚職を生む、そもそも創新が持つ不確実性といった本質を理解していないとの指摘だ(2016年2月3日付財新社説)。中国ではおそらく最も先進的な地方政府である上海市でも、あるいはそうであるからこそ、市場との比較で「政府は全知全能」という意識が強いのかもしれない。計画では、その実行は「市場主導、政府引導(誘導)」で行われるとうたっている。正しい方向だが、実際にどう実行されていくのかが計画成否を握る。

 

(注1)2015年、12の中央国企を6に再編した後、16年はまず、中遠集団と中国海運、中国建材と中材集団、中電投集団と国家核電の3組を統合試験企業として指定、さらに、港中旅集団と国旅集団、中粮集団と中紡集団、宝鋼と武鋼(鉄鋼の過剰生産解消が主たる目的と思われる)、中儲粮総公司と中儲棉総公司の統合も進められている。国資委は17年も再編を進め、企業数が2桁台になることは間違いないとしている(中国各誌)。

 

(注2)領導小組は党や国務院の下に、政策アドバイスや調整を目的に、課題に応じて設置される小規模指導グループ。全面深化改革領導小組は、その中でも最も重要な小組という位置付け。

 

 

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