2024年1月にスタートした「新NISA」が流行に
公的年金が十分かどうか疑問という中、老後生活のための貯蓄が必要になるだろう。こうした状況下で、新NISAが2024年1月に発足した。これが、老後資金問題の解決策なのだろうか?
そう考えている人が多いようだ。事実、新NISAが発足すると、資金流入が爆発的に増加し、社会的な流行ともいえる現象を引き起こした。
ただ、老後資金の積み立て手段として新NISAが最適なものかどうかは、以下に見るように、疑問だ。この問題は、冷静に考える必要がある。
NISA(NIPPON Individual Savings Account)とは、少額投資非課税制度。2014年から10年間(2023年まで)という期限付きで実施されていたが、2024年に制度改正が行われた。
日本証券業協会によると、証券10社の2024年1~5月のNISA口座の新規開設数は、224万件と、前年同期の2.6倍だった。NISA口座を通じての買い付け額は6兆6,141億円と、前年同期の4.2倍となった。
新NISAによる税制上の利益は大きくない
新NISAがどれほど有利なものかを判断する場合、次の2つを区別して考える必要がある。
1.新NISAによる税制上の特典は、どの程度の大きさか?
2.資産を預金ではなく株式投資や投資信託などで運用するのは、どの程度有利か?
まず、1の問題について考えよう。
日本の税制では、株式や投資信託などから得られる収益については、総合課税ではなく、分離課税を選択することができる。税率は所得金額によらず、一律に20.315%(所得税率が15%、住民税率が5%、復興特別所得税率が0.315%)。
新NISAを選択すれば、これがゼロになる(成長投資枠で240万円、つみたて投資枠で120万円、合計年間360万円まで非課税で投資することができる)。
これは確かに税制上の優遇措置なのだが、その大きさはどの程度のものだろうか?
新NISAの投資限度額は1,800万円なので、毎年、順次積み立てていく場合を考えれば、平均残高が900万円だ。収益率が3%であるとすれば、収益は27万円。分離課税を選択した場合の税額は、5.5万円である。新NISAを選択すればこれがゼロになるのだが、これは、目の色を変えるほどの大きな利益とは考えられない。
しかも、新NISAを選択した場合には、「損失の繰越控除」という税制上の特典を失うことに注意が必要だ。
株式の投資はリスクが大きいため、株式や投資信託などを売却した場合に生じた損失のうち、その年に控除しきれない損失金額が残る場合がある。こうした場合には、翌年以降3年間にわたって、株式等の譲渡所得から譲渡損失の繰越控除ができる。
こうすれば、平均的な税負担が低くなる。これはリスク投資に関してはかなり重要な措置なのだが、新NISAを選択した場合には、その特権を放棄することになる。
以上を考慮すると、新NISAは、さほど大きな税制上の特権を与えているとは思えない。
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