「新NISA」は老後資金問題の解決策になりうるのか?…社会的ブームの裏にある「巨額の宣伝費」が意味すること【経済学者・野口悠紀雄氏が解説】

「新NISA」は老後資金問題の解決策になりうるのか?…社会的ブームの裏にある「巨額の宣伝費」が意味すること【経済学者・野口悠紀雄氏が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2023年6月、岸田前内閣は「貯蓄から投資へ」というスローガンの下、新NISAを政策の柱として位置づけ制度を大幅拡充しました。では、老後資金問題はNISAで解決できるのでしょうか。本記事では、経済学者・野口悠紀雄氏の著書『終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集して、新NISAの税制上の利益やリスクについて解説します。

2024年1月にスタートした「新NISA」が流行に

 

公的年金が十分かどうか疑問という中、老後生活のための貯蓄が必要になるだろう。こうした状況下で、新NISAが2024年1月に発足した。これが、老後資金問題の解決策なのだろうか?

 

そう考えている人が多いようだ。事実、新NISAが発足すると、資金流入が爆発的に増加し、社会的な流行ともいえる現象を引き起こした。

 

ただ、老後資金の積み立て手段として新NISAが最適なものかどうかは、以下に見るように、疑問だ。この問題は、冷静に考える必要がある。

 

NISA(NIPPON Individual Savings Account)とは、少額投資非課税制度。2014年から10年間(2023年まで)という期限付きで実施されていたが、2024年に制度改正が行われた。

 

日本証券業協会によると、証券10社の2024年1~5月のNISA口座の新規開設数は、224万件と、前年同期の2.6倍だった。NISA口座を通じての買い付け額は6兆6,141億円と、前年同期の4.2倍となった。

新NISAによる税制上の利益は大きくない

新NISAがどれほど有利なものかを判断する場合、次の2つを区別して考える必要がある。

 

1.新NISAによる税制上の特典は、どの程度の大きさか?

 

2.資産を預金ではなく株式投資や投資信託などで運用するのは、どの程度有利か?

 

まず、1の問題について考えよう。

 

日本の税制では、株式や投資信託などから得られる収益については、総合課税ではなく、分離課税を選択することができる。税率は所得金額によらず、一律に20.315%(所得税率が15%、住民税率が5%、復興特別所得税率が0.315%)。

 

新NISAを選択すれば、これがゼロになる(成長投資枠で240万円、つみたて投資枠で120万円、合計年間360万円まで非課税で投資することができる)。

 

これは確かに税制上の優遇措置なのだが、その大きさはどの程度のものだろうか?

 

新NISAの投資限度額は1,800万円なので、毎年、順次積み立てていく場合を考えれば、平均残高が900万円だ。収益率が3%であるとすれば、収益は27万円。分離課税を選択した場合の税額は、5.5万円である。新NISAを選択すればこれがゼロになるのだが、これは、目の色を変えるほどの大きな利益とは考えられない。

 

しかも、新NISAを選択した場合には、「損失の繰越控除」という税制上の特典を失うことに注意が必要だ。

 

株式の投資はリスクが大きいため、株式や投資信託などを売却した場合に生じた損失のうち、その年に控除しきれない損失金額が残る場合がある。こうした場合には、翌年以降3年間にわたって、株式等の譲渡所得から譲渡損失の繰越控除ができる。

 

こうすれば、平均的な税負担が低くなる。これはリスク投資に関してはかなり重要な措置なのだが、新NISAを選択した場合には、その特権を放棄することになる。

 

以上を考慮すると、新NISAは、さほど大きな税制上の特権を与えているとは思えない。

 

注目のセミナー情報

【事業投資】3月22日(土)開催
年商5億円も夢ではない
なんと⁉店舗継続率、驚きの97.3%!
「買取大吉」のリユースビジネスの秘密とは

 

​​【税金】3月25日(火)開催
“国税OB不動産専門税理士が登壇“不動産投資セミナー
実物件を使ったシミュレーションで学ぶ賢い不動産投資術!

次ページ新NISAには巨額の宣伝費が投入

※本連載は野口悠紀雄氏の著書『終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実

終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実

野口 悠紀雄

KADOKAWA

幸せな老後を迎えるために必要なこととは? 「トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭に、つぎの有名な言葉がある。「幸せな家庭は同じように幸せだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」。 終末についても、同じこと…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録