「食料」と「食糧」って何が違うの?
「日本の食料自給率(カロリーベース)は38%と、先進国の中で最低水準である」というニュースを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
「食料自給率」とは、国民に供給される食べ物のカロリーの総量に対する国内生産の割合を示すもので、日本は「国民の食べ物の38%しか国内で生産しておらず、残りは輸入に頼っている」ということになります。また、別のニュースで、「世界では食糧不足に陥っている地域があり、多くの子どもたちが栄養失調で苦しんでいる」という話もよく聞きます。食べ物がなくて困っている、ということですね。
さて、「食料自給率」と「食糧不足」という2つのニュースを見比べたとき、気になることがあります。「食料」と「食糧」って、いったい何が違うのでしょうか? 実はこの「食料」と「食糧」、耳で聞くと同じ「しょくりょう」ですが、使い方が少し異なります。
「食料」は、食べ物全般を指す言葉です。米や麦、野菜、肉、魚、卵、乳製品、果物、さらには加工食品や調味料など、人間が口にするさまざまな食品や食材がすべて「食料」に含まれます。こちらの「食料」は、ひとりの人間の生活という観点で用いられる言葉です。一般の消費者が日常生活の中で食べるものを表すときに使います。ですから、台風や豪雨といった災害によって供給網が途絶え、スーパーから食べ物がなくなった、というようなときには「被災地では食料が不足しています」などと報道されます。
一方で「食糧」は、さまざまな食べ物の中でも特に米や小麦、とうもろこしなど、「主食」とされているような食材に着目している言葉です。「日本の食糧」と言ったら「米」のことを指します。この「食糧」は、「食料」とは少し違い、政治や経済などの観点で主に用いられます。人間が生きていくために必要な食べ物を指し、安定的な生産・流通・保存といった国内外の政策、経済、公衆衛生など、社会の目線で食べ物を語る際に用いられることが多いです。
ですから、先の「食料」での例と同様の、災害によって食べ物が不足しているという場面でも、それが飢饉に対する緊急援助や国際協力といった文脈で語られるときは「食糧不足が深刻です」などと報道されるのです。
「食料」と「食糧」では観点が違うのだということがわかると、報道された内容について「その地域に暮らしている人の話だな」「これは国の政策の話だな」と正しい見方で読み取ることができるようになります。
「食料」と「食糧」とでは、それが指すもの自体も、使い方自体も違い、そして議論する内容も変わってきます。逆にこの2つの使い分けができていないと、話が嚙み合わなくなってしまうのです。
例えば災害が起こった後の報道を考えてみましょう。ここまで読んできたみなさんなら、次に挙げる2つのニュースの違いをおわかりいただけると思います。
「食料支援をお願いします!」
これは、被災者の人たちが食べるものを求めているということで、米以外のものでも大丈夫なので、なんでも食べ物を支援してほしい、という意味。
「被災地での食糧不足が問題になっています」
災害によって農地が被害を受け、その地域で主食として作られているものが不足してしまっている、という意味です。
これまで、国際的な文脈で語られる「ショクリョウ問題」と言えば、もっぱら発展途上国における諸問題のひとつとしての「食糧問題」でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行や、ロシアのウクライナ侵攻によって、食料生産と流通が打撃を被り、世界的に家計における食費が上がっているという事態が問題視されるようになりました。
「食料」と「食糧」の違いが理解できると、ニュースを読んだときに「今、何が問題視されているのか」がわかるようになるわけです。
Point
・「食料」は、ひとりの人間の生活という観点で用いられる言葉で、「食糧」は、「主食」とされているような食材に着目している言葉
・この2つの違いを知るだけで、国の状況がわかるかもしれない
