VTuberによるゲーム実況、著作権侵害があれば、最悪「刑事罰」も…動画配信がはらむ重大リスク【弁護士が警告】

VTuberによるゲーム実況、著作権侵害があれば、最悪「刑事罰」も…動画配信がはらむ重大リスク【弁護士が警告】
(※写真はイメージです/PIXTA)

インターネット利用者のうち、動画投稿・共有サイトを利用していると回答した人は全世代で50%超。それに付随して、VTuberなどの動画配信者として活動する人も増えています。しかし、安易な動画配信やゲーム実況が、ときには重大な著作権違反となることがあるため、注意が必要です。知的財産法にくわしい、弁護士法人GVA法律事務所の箕輪洵弁護士が解説します。

「迷惑系」だけが「法律に触れる動画配信」ではない

VTuber(バーチャルYouTuber)とは、YouTubeなどの動画投稿・共有サイトにおいて自身のキャラクターとしてCGモデルを出演させる動画配信者をいい、今や大変影響力のある存在となっています。

 

2021年8月25日に総務省から発表された調査結果によると、10代~60代が平日にインターネットを利用する時間の平均値が、平日にテレビを見る時間の平均値を超えていたことが明らかになりました※1。また、インターネットを利用する者のうち、動画投稿・共有サイトを利用すると答えた方は全世代で50%を超えています※2

 

※1 総務省「令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」

※2 総務省「令和3年版情報通信白書」

 

このように、世代を問わずインターネットは広く普及し、VTuberなどの動画配信者はさらに増加していくと思われます。

 

しかし、動画配信に際しては多くのトラブルや法律違反のリスクを含んでいます。動画配信に関するトラブルといえば、世間に動揺や不安をもたらす、いわゆる“迷惑系動画配信者”が最初に思いつくところかもしれませんが、実は、そのような不適切な動画配信を行っていない場合であっても、法律違反のリスクがないとはいえないのです。

 

そこで、本記事では、VTuberにとって特に注意が必要な著作権に焦点を当てて、典型的な場面における著作権法違反のリスクやそれに関連するトラブルの回避の方法について解説します。

第三者による無断利用を禁止…著作権は非常に強力な権利

著作権法は、創作者が創り出した著作物について、さまざまな内容の権利を定める法律です。著作物は、典型的には小説や映画などが該当しますが、法律上は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と定められており、ゲームや写真、場合によってはダンスの振り付けにも認められるなど、あらゆるものが該当し得ることになります。

 

もちろん、VTuberのキャラクターのCGモデルや原画なども著作物であり、原則として創作者は、著作物を創作した時点でその著作物について著作権を取得します。

 

著作権者は、第三者による無断での著作物の利用を禁止することができるという、非常に強力な権利を持ちます。そのため、動画配信を行う場合には、まずはこの著作権に注意するようにしましょう。以下、VTuberが特に注意すべき事項をいくつかご紹介します。

ゲーム配信と著作権侵害

VTuberの多くがゲーム配信(ゲームプレイやそれに合わせた実況とともに動画を投稿したり配信したりすることをいいます)を行っていることはご存じだと思います。

 

しかし、ゲームも著作物となり得ることは先ほどご説明した通りです。そのため、ゲームについて著作権を有するゲーム製作会社や販売会社から配信の許諾を得なければ、著作権侵害となってしまいます。

 

では、常に著作者から直接許諾を得なければならないかというと、必ずしもそうではありません。なぜなら、ゲームの著作権を有する会社は、著作物の利用に関するガイドラインを公表している場合があり、多くの場合、そのガイドラインに従っている限りは著作物の利用を許容しているためです(著作権法は著作権者による著作物の利用の許諾を認めています〈同法63条〉)。

 

たとえば、いち早くこのようなガイドラインを示したことで有名な任天堂株式会社(以下「任天堂」といいます)の「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を例に見てみましょう。

 

任天堂が発表したガイドラインにはこのようにあります。

 

任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット(以下「任天堂のゲーム著作物」といいます)を利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません。ただし、その投稿に際しては、このガイドラインに従っていただく必要があります。

 

つまり、ガイドラインに従うかぎりではゲーム実況等に任天堂のゲームを用いることを認めるし、また、指定のサービスであれば収益化を行ってもよいですよと、著作権者である任天堂が表明しているわけです。

 

一方で、このような記載もあります。

 

任天堂は、違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿、このガイドラインに従わない投稿に対して、法的措置を講じる権利を保持しています。

 

つまり、任天堂は、ガイドラインに従わない投稿や、違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿については著作物の利用を許諾しておらず、このような投稿を行うVTuberは任天堂の著作権を侵害することになります。

 

したがって、VTuberは、任天堂のゲーム配信を行う前にこちらのガイドラインをしっかり読んで、ルールを守る必要があり、逆にいえばルールを守ることにより、適法にゲーム配信を行うことができるのです。なお、本記事ではガイドラインのごく一部のみを引用しているだけですので、ゲーム配信を行う際には必ずご自身で任天堂のウェブサイトにて最新の全文を確認してください。

 

以上は、任天堂を例として取り上げましたが、ご存じの通り、ゲーム製作会社は数多くあります。そのため、ゲーム配信を行う際には、配信しようとしているゲームの著作権者がガイドラインを公表しているかどうかをまず調べる必要があります。そして、ガイドラインがあれば、それをよく読み、その内容をしっかり守らなければ、著作権侵害となってしまうということになります(個別のゲームごとに、どのステージ・チャプターの配信が認められているか、ネタバレを禁止しているかなどが、ガイドラインに細かく設定されていることもあるので注意が必要です)。

 

もし、ガイドラインに動画収益を認めないとの記載がある場合には、その動画での収益は、著作権者から個別に許諾を得ない限り著作権侵害となります。

 

さらに、ゲームの著作者がガイドラインを公表していない場合もあります。この場合には、そのゲームの著作権者から個別に利用許諾を得なければなりません。

 

これまで、ゲームについて取り上げましたが、動画に使用するイラストや音楽についても同様に著作権について配慮する必要があります。著作権を侵害することのない動画の作成を強く心がけましょう。

VTuberのキャラクターCGと著作権

また、著作権の問題は、動画配信前にも発生する場合があります。それは、キャラクターCGなどのVTuberに不可欠な素材を第三者に制作してもらった場合です。

 

この場合、著作権はキャラクターCGなどを制作した著作者に帰属し、VTuberには帰属しません。そのため、制作者(著作者)との間で契約書を作成し、著作権がVTuberに移転するという取決めを行うなど、キャラクターCGの利用に著作権侵害が生じないように手当てしなければならないのです。テーマソングやロゴ、イラストなどを制作してもらった場合も同様です。

VTuberの二次創作物と著作権

こうして、著作権侵害やその他法律違反のリスクに配慮して動画の配信を続けた結果、着実に人気を獲得することができたVTuberについては、視聴者によるファンアート作成といった、いわゆる二次創作が盛り上がることも多々あります。もっともその中には、望ましくない二次創作もあるかもしれません。

 

この場合、今度はVTuberが著作権者としてそのような創作をやめてもらう権利を持っていますし、そもそも、(私的使用の場合などを除いて)二次創作を一切禁止することもできます。ただ、適切な二次創作であれば、VTuberの知名度や人気をさらに加速させることを期待できますから、一切禁止するよりは、適切なものであればあえて二次創作を許諾するということも考えられます。

 

もっとも、多くのファンに対しその都度個別に許諾を与えるのは大変です。そこで、VTuberとしての「二次創作ガイドライン」を作成し、自身のチャンネルやウェブサイト上に掲載することにより、予め利用を許諾する範囲を明示しておくことがとても有効です。その内容は、暴力的な表現を含む二次創作を禁止する、差別や偏見を助長する二次創作を禁止するなど、自由に条項をカスタマイズすることが可能です。

違反すれば、コンテンツ削除やBANだけではすまない場合も…

以上のように、VTuberの活動には、著作権に絞っても以上のようなリスクが存在します(他にも、歌ってみた・踊ってみた動画など、著作権に留意すべき場面は数多く存在します)。

 

一度でも誰かの著作物を勝手に使って動画を投稿・配信してしまうと、著作権侵害を理由に投稿した動画が削除されてしまったり、収益の停止やチャンネルの凍結などの処分がなされたりするおそれがあるだけでなく、著作権者から損害賠償の請求を受けることもあります。また、場合によっては、刑事上の罰則が科されることもあります。

 

さらに、動画の内容によっては、刑法や景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)などさまざまな法律が関わってくる場合があります。

 

以上のことから、VTuberとして活動されている方やこれから始めようとしている方は、専門家へ相談することをお勧めします。

 

 

箕輪 洵
弁護士法人GVA法律事務所 弁護士
 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録