YouTube動画投稿で「著作権法違反」が問題となりやすい例
YouTubeに動画を投稿する際、他人の音楽や映像、画像を使用したり、ゲーム実況や映画の一部を切り取って投稿したりすると、知らず知らずのうちに著作権を侵害してしまうことがあります。この場合、収益化が制限されることもあり、場合によっては動画削除やアカウント停止、さらには著作権者から訴訟を提起される等のリスクもあります。
ここでは、YouTube投稿で著作権法違反が問題となりやすい事例を2つご紹介します。
【事例①】カフェで流れていた音楽が入り込んでしまったが…
「いわゆるVlogを撮影していたところ、カフェで流れていた音楽が入り込んでしまいました。このままYouTubeにアップしても大丈夫でしょうか?」
結論としては、その音楽は偶然動画内に入り込んでしまったのであり、撮影していた動画のメインとはならない場合には、著作権法上も違法にならない、と考えられます。
本件のように、偶然動画内に入り込んでしまった音楽は「付随対象著作物」(著作権法第30条の2第1項)に該当することがほとんどであるといえます。
付随対象著作物は、正当な範囲内であれば、当該音楽の著作権者の利益を不当に害しない限り、著作権者以外の者も使用することができます。したがって、音楽の入り込みが偶然と言える程度であり、当該音楽が動画のメインとは言えない場合には、動画をYouTubeにアップしても著作権法違反にはならないと考えられます。
ただし、カフェで流れている音楽を高音質で長時間に渡って撮影し、これを聞かせるような動画になっている場合には、付随対象著作物の利用として認められず、著作権侵害になるリスクが高い点には留意が必要です。
【事例②】他人の動画のパロディ動画の作成・アップを考えているが…
「他人の動画のパロディ動画を作成してアップすること考えています。パロディなので、著作権侵害にはならないのではないでしょうか?」
結論としては、著作権法上、翻案権(著作権法第27条)及び同一性保持権(同法第20条第1項)の侵害に該当し違法である可能性が否定できません。
パロディとは、既存の作品の一部または特徴を模倣し、風刺、批評、ユーモア等の要素を加えた創作表現のことを指します。日本ではパロディを許容する法律が制定されていないため、パロディ作品は、原則として著作権法上の翻案権及び同一性保持権の侵害に該当し違法になると考えられます。
もっとも、第三者の動画をアイデアとして参考にしたに過ぎず、表現方法を根本から変更していたり、動画撮影の構図等を全く模倣しなかった場合には、著作権が生じないアイデアの模倣に過ぎないとして、翻案権及び同一性保持権の侵害に該当しない場合もあります。
YouTube動画投稿が「ステマ」になってしまうケース
企業から報酬を受け取って商品やサービスを紹介する際、適切な表示をしないと“ステルスマーケティング(ステマ)”とみなされる可能性があります。
ステマとは「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定義されています(令和5年内閣府告示第19号。以下、同告示を「ステルスマーケティング告示」といいます。)。ステマは消費者を誤解させる広告として問題視され、2023年10月にステルスマーケティング告示によるステマ規制が施行され、YouTube動画投稿を行う際に留意すべき規制のひとつとなりました。
ステルスマーケティング告示の規制対象となるのはいわゆる広告主であり、広告主から広告・宣伝の依頼を受けてSNSへの投稿等を行うYouTuberやインフルエンサーは原則としてステマ規制の対象外となります。もっとも、広告主との契約のなかで、法令に違反しないように動画を制作する義務が定められていることが多いため、YouTuberやインフルエンサーによる動画投稿によって広告主がステマ規制に違反することとなった場合は、広告主から契約違反を理由に損害賠償請求がなされるリスクがあります。
ステマ規制の施行により広告主である企業からステマ規制への対応・回避を求められるシーンが今後増えると考えられます。ここでは、YouTube動画投稿において、ステマ規制関連の問題が生じることを避けるための対応を2つご紹介します。
ステマの指摘を回避するワザ① YouTube投稿が「PR」「広告」である旨を明記
広告であることが一般消費者からみてわかりやすい表示になっていたり、一般消費者にとって事業者の表示であることが社会通念上明らかなものは、ステマ規制で禁止されるステマに該当しないこととなります。
より具体的には、
●YouTubeに投稿した動画内の冒頭に「PR」「広告」「この動画はプロモーションを含みます」等の表記を行う
●当該表記にあたっては、動画内の文字の平均的な大きさと比べて小さい文字、背景等の色味と明確に区別しにくい色味を使用せず、はっきりと明確に記載をする
●当該表記を他の情報に紛れ込ませて記載したり、動画内で「個人の感想である」等の広告であることが判断しにくくなる表現を用いた説明を避ける
等の対応を行い、今回のYouTube投稿が「PR」「広告」であることを明らかにすることをおすすめします。
ステマの指摘を回避するワザ② 企業から依頼を受けていない場合は、その旨を明確化
実際にはPR・広告ではないにもかかわらず、YouTube動画内の発言が原因で、一般消費者に「この投稿はPR・広告である」と受け取られてしまうケースも散見されます。
たとえば、とても良いと思った化粧品をYouTube動画で紹介したところ、一般消費者からはPR・広告のように見えてしまい、「PR案件、広告案件なのに正しく表示していない」と受け取られ、ステマ規制違反ではないか!との指摘が動画投稿者や化粧品販売会社に対してなされた、というケースが考えられます。
もちろん、実際にPR・広告案件でないのであればステマ規制に関する問題は生じないものの、このように投稿者側に非があると受け取られてしまうといわゆる炎上につながりやすく、深刻な場合には誹謗中傷に繋がったり、他の企業との契約への影響も生じ得ます。
このような事態を防ぐには、動画内において「PRや広告ではなく、あくまでも個人的なおすすめである」旨や「企業からお金を頂いて行っている宣伝やプロモーションではない」旨を明確にしておく等の対応が考えられます。
YouTube動画投稿への「法的知識」が不足している人、多数
YouTube動画投稿が年々人気を博し、投稿者が増加している一方で、著作権やステルスマーケティング規制など、YouTube動画投稿に関する法的知識については不足している方も多くいらっしゃいます。
法令に違反すると、動画削除やアカウント停止にとどまらず、損害賠償や刑事責任を問われるリスクもあります。
特に、企業案件や広告収益を目的とする場合は、法的リスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要となりますので、投稿前に一度、内容が法的に問題ないか確認し、必要に応じてYouTuber法務・インフルエンサー法務に詳しい弁護士にご相談ください。
林越 栄莉
弁護士法人GVA法律事務所 弁護士
