600ドル以上の利益で報告義務
アメリカの金融機関は利息、配当、キャピタルゲイン、ロスの金額をIRS(内国歳入庁)と納税者に報告する義務があります。また使用者が労務を依頼し、600ドル以上の支払いを行うと、IRSと労働者に報告しなければなりません。
これは日本でいうところの源泉票にあたります。日本では源泉しない限りは税務署に提出する必要はありませんが、アメリカでは600ドル(約9万円)を超える支払いについては誰に支払ったという「フォーム」に基づき必ず提出することになっています。
IRSは納税者への所得を厳しく監視しています。このような支払報告のフォームを「1099」と呼んでいます。毎年の所得額について、翌年1月中にIRSへの報告が義務付けられています。
第三者決済業者が反対
そのなかでも「Form 1099-K」が大きく変わろうとしています。ちなみにこの制度は日本にはありません。
2021年に「American Rescue Plan Act」(米国経済対策法)が施行され、IRSはPayPal、Venmo、eBay、EtsyなどのThird Party Settlement Organization (TSBO、第三者決済の企業)から支払われる600ドル以上の取引については、すべてIRSやその利用者にForm1099-Kの発行を義務付けました。
それまでForm1099-Kについては、年間総額2万ドル(300万円)以上および200回以上の取引を行ったケースのみが報告義務がありました。そのため、金額的に大きな差があり、もしこれを実際に行うとすれば、潜在的に4,400万ドル以上のForm 1099-Kを発行することになりかねません。
手続きが非常に煩わしくなり、混乱を招くとして、TSBOは反対をしていました。eBayや PayPalなどは600ドルの基準を緩和するようアメリカ議会に陳情してきましたが、いまだ、議会の動きはありません。
ほぼすべての支払いに報告義務付け
これに対しIRSは600ドルでの施行を猶予してきましたが、最近になって2024年度は5,000ドル以上、2025年度は2,500ドル以上、2026年度からは600ドル以上のすべての取引に対しForm 1099-Kによる報告義務の対象とするという段階的な移行を正式に発表しました。
IRSは、衣服や家具のような個人のアイテムの売却も含み、さらにサービスの提供による収入や家賃収入も含むとしています。
その支払手段は、アプリやオークションサイト、チケット交換もしくは再販売サイト、クラウドファンディングプラットフォーム、フリーランスプラットフォームなど、ほぼ全域が網羅されています。
これによりギグワーカー(プラットフォーマーを介する形で仕事を受ける就業者)もIRSから逃れることは難しくなります。個人的に自分の車や家具をオンラインで売るケースが増えるのではないでしょうか。大谷翔平選手が在籍するドジャースのチケットをアプリで再販し、基準額以上になるとForm1099-Kを受け取ることになります。つまりは税務申告をする必要があるのです。
一方でオンラインサイト運営する企業からすれば、売り手の納税者番号など、個人情報を収集する必要があります。これから納税者はますますガラス張りとなり、税金から逃げられなくなるでしょう。
アメリカはいろいろな意味で面倒で難しい社会になってきましたが、税逃れを取りしまりたいIRSと、そうはさせまいとする脱税者の凌ぎあいが行われていますが、これまで日米の税務に携わってきた私の見方であると、日本の方が所得隠しは難しいと思います。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾