子「実家より、現金を相続したい」
いまだに低金利でも預金口座にお金を預けている人もいますが、現金を手元で保管しているという人も少なくないようです。前項でも説明したように、お金の価値は目減りしていくことが考えられます。額面だけみれば、マイナスになっていないと感じてしまいますが、実質の貨幣価値をみると、インフレによる目減りが考えられます。
今回のケースでは、相続が発生したときに相続税が発生していませんが、現金で持っていることで、ほかの財産と合わせると基礎控除を上回る可能性もあります。こうしたお金を保険にしておくことで、被相続人の人数×500万円がみなし相続財産とされ、非課税に加算されることになり、非課税の枠が増えることになります。
今回、伊藤さんは単独相続だったことで、争族になることはありませんでした。もし相続人が複数いる場合には、不動産と現金などを分割する際に揉めるケースも多く、特に相続税が課税されないケースで増えているようです。
令和4年度に遺産分割で裁判所に持ち込まれた件数は1万2,982件あり、容認・調停成立となったのは約半数の6,858件です。成立となった相続財産の価額を見ると、5,000万円以下が76%と4分の1以上を占めています。
もう誰も住まない実家の不動産を相続するより、現金を相続したいと思う人が多いようです。しかし、相続税が課税されないからと相続対策をしていないと「相続」が「争族」へとなってしまう可能性についても考えておく必要があります。伊藤さんは相続した財産の使い道に関して、
・子どもの教育費に一部を活用
・iDeCoを利用して老後資金の準備に充当
・万が一の際に子どもへ渡すお金として子ども2人を受取人にした生命保険に加入
などを行うことにしました。母の遺したお金を有効に使いたいと考えているようです。
〈参考〉
総務省「消費者物価指数(CPI)結果」2020年基準長期時系列データ
https://www.stat.go.jp/data/cpi/1.html
裁判所「令和4年度 司法統計年報 3 家事編」遺産分割事件数
https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/659/012659.pdf
吉野 裕一
FP事務所MoneySmith
代表
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