そんな中、兄が実家を残したいと言い始めて
公正証書遺言の中で特に瑞希さんが困っているのは、広い自宅の土地についての記載です。兄、瑞希さん、妹の3人で3分の1ずつ相続するようにと書いてあります。
生前、父親は一人暮らしをして、広い自宅や庭、樹木などの管理をしてきました。瑞希さんと妹は結婚して実家を離れて久しく、また、実家に戻る気はありません。納税資金が足りないこともあり、売って3等分にしたいと思っています。
ところが、兄がそれについては反対だというのです。兄自身は父と同居してこなかったというのに、今になって「実家は残す」というのです。父親は本家の長男でしたから、実家のまわりには親戚が大勢いて、また実家には仏壇もありました。急に「俺は長男だから!」と張り切り始めまた兄。仏壇を売るわけにはいかないということで、自分が維持していくと言い張るのです。
しかし、自宅を維持するとなれば、当然、固定資産税や庭木の手入れなどが必要で、維持費は年間100万円以上になる見込みです。それでは正直、負担しかありません。
貸宅地の地代を固定資産税の支払いに回していた父
父親は「貸宅地の地代収入」で生活をしていました。土地が多く、自宅の土地も広いので、毎年の固定資産税は500万円以上もかかり、それに対して貸宅地の地代は月額60万円程度。固定資産税はぎりぎり払えますが、残りだけでは生活ができない状況です。
しかし定年まで勤めていたお陰で年金がもらえてたので、なんとか持ち出しにはならない程度で賄えていたようでした。
遺言書には、貸宅地は瑞希さんと妹の2人が4か所ずつ相続するようにと指定されていました。瑞希さんも妹も、貸宅地を維持する気はなく、売却して納税資金にするつもりだといいます。
銀行から、貸宅地は現状想定額の半分以下でないと売れないと言われて…
父親の預金は約7,000万円で、財産の10%程度。預金だけでは相続税は払えません。よって、あとの20%は不動産を売却して現金を捻出する必要があります。
今後の生活を考えると、相続した預金は残して、納税資金は不動産から捻出することが妥当かと考えられます。しかし現状、銀行からは、貸宅地の評価が高すぎると言われ、実際の売却は現在の評価額の半分以下でないと売れないだろうと、不安なことばかり聞かされているといいます。
そもそも銀行は、相続・遺言書・不動産の専門家ではない
瑞希さんの父親は土地持ちの資産家でしたので、銀行にとっては優良顧客だったでしょう。それだけに相続になったときにも売上につながるだろうという判断がなされ、現在の公正証書遺言につながったのでしょう。
しかしながら、実際のところ、彼らは相続の専門家ではありません。財産の分け方や納税についてはほとんどノープランで、相続人である子どもたちが困らないようにしたいという発想もなかったと思えます。
一方、自分たちの報酬に関する記載は明確で、財産の1%を遺言執行料とすると明記されていたのです。700万円以上の報酬になりますが、瑞希さんは、「遺言書の作成には既に100万円以上も払っていて、さらに今回は何もしてもらってすらいないのに、700万円以上も払わなければならないのでしょうか?」と嘆いていました。