(※写真はイメージです/PIXTA)

会社を作る際、日本では主に「株式会社」か「合同会社」が選択されます。どちらを選ぶべきかは事業規模や目的等によって異なりますが、世間的には株式会社のほうが社会的信用を得やすく、大規模な資金調達もしやすいなどの優位性があります。そんななか、アマゾンジャパンやグーグルジャパンが「合同会社」として設立されたのはなぜでしょうか。加陽麻里布氏(司法書士法人永田町事務所 代表)が解説します。

小規模事業やスタートアップ向けという印象が強い「合同会社」

日本では、会社を設立する際に「株式会社」を選ぶことが一般的です。しかし、世界的な大企業であるAmazonやGoogleが日本法人に「合同会社」という形態を採用していることをご存じでしょうか。合同会社は、小規模事業やスタートアップ向けというイメージが強い一方で、実はこれらの外資系大企業にとって非常に合理的な選択肢となっています。

 

本稿では、合同会社の特徴を整理し、AmazonやGoogleが採用している理由を深掘りしていきます。さらに、この選択がどのように事業運営や戦略に貢献しているのかを解説します。

合同会社とは?特徴とメリット

合同会社(LLC:Limited Liability Company)は、2006年に会社法の改正によって導入された比較的新しい会社形態です。その特徴は、設立や運営が簡便で、経営の自由度が高い点にあります。

 

【合同会社の主な特徴】

1.設立コストが低い

・株式会社の設立に比べ、登録免許税が6万円(株式会社は15万円)と安く、定款認証の費用も不要です。

 

2.運営コストが少ない

・株主総会や決算公告の義務がなく、事務的な負担を軽減できます。

 

3.経営の自由度が高い

・出資比率にかかわらず利益配分を自由に設定することが可能です。

・定款により、運営ルールを柔軟に決められます。

 

4.決算情報の非公開

・株式会社では義務付けられている決算公告が不要なため、経営情報が外部に公開されません。

 

5.所有と経営の一致

・出資者全員が経営に直接関与できるため、効率的な運営が可能です。

AmazonやGoogleが合同会社を選ぶ理由

(1)設立・運営コストが最小限

合同会社は、設立費用や運営コストを抑えながらも、必要十分な法人格を持つため、AmazonやGoogleのような外資系大企業でも魅力的な選択肢となります。

 

(2)グローバル本社による迅速な意思決定が可能

合同会社では、株主総会や取締役会を設ける必要がなく、親会社が直接的に経営をコントロールできます。AmazonやGoogleの日本法人は完全子会社として設立されており、合同会社の仕組みを活用することで、迅速かつ効率的に意思決定を行える体制を整えています。

 

(3)決算情報の非公開で競争優位を確保

合同会社には決算公告の義務がないため、売上や利益といった経営情報を外部に公開する必要がありません。競争が激しい業界では、こうした情報が競合に知られないことが戦略的に大きな意味を持ちます。

 

例)Amazonは日本市場で圧倒的なシェアを誇りますが、合同会社の形態を採用することで、その具体的な経営状況を外部から把握されにくくしています。

 

(4)親会社の利益を最大化

合同会社では利益配分を柔軟に設定できるため、グローバル本社の利益を最大化する仕組みを構築できます。これにより、税務上のメリットを享受しつつ、全体最適を図ることが可能です。

 

(5)日本の法制度に対応

日本の株式会社では、株主総会や公告義務など、外資系企業にとって馴染みの薄い規則が多く存在します。合同会社はこうしたルールに縛られないため、外資系企業にとって合理的な選択肢となっています。

合同会社にはデメリットもあるが、大企業にとっては無問題

合同会社には多くのメリットがありますが、考慮すべきデメリットも存在します。ただし、これらはAmazonやGoogleのような大企業にはほとんど影響を及ぼしません。

 

(1)信用力の課題

日本では「株式会社」の知名度が高く、合同会社は小規模事業のイメージを持たれることがあります。しかし、AmazonやGoogleのようなブランド力のある企業では、この問題は発生しません。

 

(2)資金調達の制約

合同会社は株式を発行できないため、株式を活用した大規模な資金調達ができません。しかし、AmazonやGoogleの日本法人は親会社からの資金で運営されているため、この制約は問題になりません。

AmazonやGoogleに学ぶ合同会社の活用法

合同会社は、中小企業やスタートアップにとっても非常に有用な選択肢です。特に次のケースでは、合同会社のメリットを活かすことができます。

 

(1)小規模ビジネスやスタートアップ

・初期費用を抑えて法人化を目指す場合に最適です。

・定款で柔軟に運営ルールを設定することが可能です。

 

(2)決算情報を非公開にしたい場合

・外部に経営情報を公開したくない場合、合同会社を選ぶことでリスクを軽減できます。

 

(3)迅速な意思決定を求める事業

・経営者自身が意思決定を迅速に行いたい場合に、合同会社は最適です。

合理性が際立つ「合同会社」という選択

AmazonやGoogleが合同会社を選ぶ理由は、コスト削減、迅速な意思決定、非公開性、親会社の完全管理といったメリットを最大限活用しているからです。これらの特徴は、外資系企業だけでなく、国内の中小企業やスタートアップにも十分活用できるものです。

 

合同会社は設立や運営の負担を軽減しつつ、柔軟で効率的な経営を可能にする会社形態です。事業規模や目的に応じて、自分に最適な形態を選びましょう。合同会社という選択肢が、あなたのビジネスの成功を支えるカギとなるかもしれません。

 

 

加陽 麻里布

司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

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