前回は、歴史的な観点も加えて「地主の土地活用」に潜む課題について取り上げました。今回は、地主の相続税対策として活用される「賃貸物件の建築」が危険といえる理由を見ていきます。

年々利回りが低下している都心の店舗・オフィスビル

最近は収益不動産に対する期待利回りが異常に低くなったのは何故か。

 

全世界的なお金の滞留や企業収益の伸びがなくなったことに起因しており、現金そのものに魅力がなくなっているということでしょうか。利回りが低くなるというのは元本価値(価格)が上がるということです。特に都心部を中心にした店舗・オフィスビルが顕著です。弊社は不動産特定共同事業に属する証券化不動産の評価も多少手掛けています。これなども年々利回りが低下傾向にあります。

 

又、昨年夏に仲介業務で扱った中央区のオフィスビルの利回りの低下(というより価格の上昇)には驚かされます。当該ビルの年間家賃が5,000万円の時の表面利回りが6.4%で価格は7億8,000万円でしたが、現在7,000万円(リニューアルと空室の改善)の売り希望価格が何と12億5,000万円です(表面利回りが5.6%)。1年間で60%の上昇です(ちょっとやり過ぎでは)。これは、広い意味での富裕層の相続(税)対策や企業の資金運用には有効に働く可能性が高いので売れるのでしょう。

ハウスメーカーが利益を上げる一方で、空室率は・・・

では、地主さんの土地の有効活用に再度目を向けて見ましょう。

 

その前に「不動産鑑定評価基準」の最有効使用の原則を記載します。

 

「不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に可能性に最も富む使用を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な個人的な事情による使用方法のため、当該不動産が十分な効用を発揮していないことに留意すべきである

 

この文章は元々誰が考えて作ったのかは分かりませんが(不動産の鑑定評価に関する基本的考察の著者:櫛田光男さんか?)、昭和39年3月25日に不動産鑑定評価基準に設定に関する答申の中に最有効使用の原則が書かれています。52年前に作られた理論ですが、私は全く古くは感じません。それは不動産の使用方法の本質を衝いているからです。

 

特に下線部の文章に注目です。現在のマンション・アパート建築の供給過剰を予言していたかのように私には感じます。どういうことか。

 

【現在のアパート・マンション空室率(木造・鉄骨造)】

東京区部  33.68%

東京市部  31.44%

神奈川県  35.54%

千葉県   34.12%

埼玉県   30.90%

 

「各ハウスメーカーは空前の利益を計上しています。平成27年からの相続税増税対策に乗った営業効果が出ていることは確かですが、一方では空前の空室率です。このギャップは一体何でしょうか」

 

このギャップこそ「情報の非対称性」だと思います。ある事柄(真の情報)を知っている人と知らない人との行動の差です。首都圏において、これだけの空室率があるにも関わらず、今もってマンションを作り続ける(しかない)業界の体質と、それを良しとする(かどうか分からないが)地主さんたちの「不合理な個人的な事情による使用方法」。

 

まるで、行きつく先の見えないマイナス金利と同じような運命を背負って、皆で共に渡り切れるのか、この吊り橋は、と言いたい気分です。

本連載は、株式会社アプレイザルの代表取締役・芳賀則人氏のブログ『芳賀則人の言いたい放題!』から抜粋、再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒https://t-ap.jp/blog/cat_blog/column/

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