経済成長で高まる「英語力」の需要
スリランカの労働環境は、ここ数十年で変化を遂げた。ビジネスが拡大し英語力が必要とされる就職口が増えたため、エリート校の卒業生(※1)だけでは人手が足りないのだ。特に観光産業は急激に成長し、多数のホテルで圧倒的な人員不足が叫ばれている。また、これから社会に出る若者は現地語による教育を受けているため、英語がほとんど使えない。この事態は、業務上英語を必要とする企業や、現地語が分からない人々が顧客の大半を占めるホテル業界にとっては大問題だ。
コミュニケーション能力の欠乏は成長を遅らせる。一方で、チームにいる全員が完璧に英語を使いこなせる必要はない。ホテルのボーイには、同じホテルに勤めるマネジャーと同等の英語力が求められることはないだろう。では、どのようにその基準を定めればいいのか。クライアントとの会話に支障が出ないか、長文の報告書が作成できるか、30分に及ぶプレゼンが出来るか、それとも、会議のまとめ役として十分な英語力があるかなどの指標は、全ての従業員に求められるものではない。
必要な英語力の理想と現実を探る
イギリスの国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルが、これらの疑問に答えるべくベンチマーキング(※2)の手法を採用。その結果、ビジネスシーンにおける英語力の理想と現実、そして必要とされる英語力が体系立って把握されていない事実が明らかになった。そして。この手法によってスリランカにおけるいくつかの主要産業では、必要とされる英語力とは何かを、確かめることが出来るようになった。
様々な役割に求められる英語力の実態を理解するため、ブリティッシュ・カウンシルは、以下の産業で鍵となる機関に協力を求めた:ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)(※3)・ナレッジプロセスアウトソーシング(KPO)(※4)・IT・通信・製造・小売・ホスピタリティ関連・ホテル・銀行・保険。このようにして、ブリティッシュ・カウンシルは160もの役割に対し、英語力のベンチマーキングを行い、各業務でどの程度の英語力が必要か明確にイメージできるようにしたのだ。
徹底した現場検証に基づく測定
たとえば、ホテルは多岐にわたる従業員を雇っている。英語をほとんど使うことがない裏方のスタッフ、挨拶や基本情報の提供ができるぐらいの英語力が必要とされる警備員、日常会話レベルの英語力を求められるレストランのスタッフやハウスキーパー、そして日常的にクライアントや仕入先とやり取りするマネジャーは不自由なく英語を使える必要がある。
ブリティッシュ・カウンシルのトレーナーが、それぞれの役割に従事する人々に直接会い、彼ら自身がどの程度の英語力を要求されていると感じるかを話し合い、業務時に彼らが誰と関わっているのかを実際に観察し、どのような情報を扱う立場なのかを見極め、そして、どのレベルのコミュニケーションが求められているのかを確認していくことで、160もの役割に対し必要な英語力の基準が作られていった。
次回は、このベンチマーキングによる英語力測定を、企業がいかに活用できるかをご紹介します。
※1 スリランカの大学進学率は約2%
※2 ベンチマーキング
自社の生産性を向上させるために、業界内外の優良の事例と比較分析することで、自社の現行の方法との違いや問題点を認識し、その違いを解消するためにプロセス変革を進める手法を指す。
※3 ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)
自社の業務プロセスを外部企業に委託すること。他の委託サービスとの違いは、業務プロセスの企画・分析・設計から、必要なIT技術の導入、人材や設備の準備、プロセスの運用までをトータルで委託する点。
※4 ナレッジプロセスアウトソーシング(KPO)
業務のアウトソーシングの形態のひとつ。BPOは比較単純な労働集約型業務の外部委託が中心である一方、KPOの主な業務範囲は、データ収集・加工とデータ分析などが中心。規則性が少なく判断領域が多いため、知的要素がより強いとされる。