公的年金の資産配分をモデルとした運用方法の問題点
公的年金の資産配分は、シニア世代の方々の資産運用のひとつのモデルになることができますが、いくつかの問題もあります。
まず、運用期間の点です。さまざまな年金の基本ポートフォリオといわれる資産配分は、長期の統計から算出されています。公的年金の資産運用では、バブル崩壊後の過去25年間のデータを使用して計算していますが、それをシニアの方々の5年、10年といった投資期間の運用の参考としてよいのかという問題があります。
第二に、過去の各種資産の価格変動は、過去のわが国、そして世界の経済の構造・仕組みに基づいているという点です。インド等の新興国の変化など世界の経済構造は変わっていくため、過去の実績をそのまま使用することはできません。とくに、リスク(標準偏差)の値は比較的信頼できますが、収益性については過去の長期的統計はあまり信頼できないとされています。
第三に、こうした資産配分が投資を始めるときの市場の状況に合っているかという問題です。投資を始めるときは、統計の対象となった期間の平均的な状態とは異なるという場合が通常でしょう。
そうした場合の基本的な対策としては、極端な資産配分は避けることでしょう。たとえば、全世界の債券、株式の時価に応じた分散投資をするいわゆるグローバル・バランスファンドのようなタイプですが、これは現代ポートフォリオ理論の「市場ポートフォリオ」に近いものを目指す分散投資です。
市場ポートフォリオとは、すべての投資家が市場全体に投資することで、リスクを最小化しつつリターンを最大化するという考え方による分散投資で、全世界の株式、債券の時価の割合で投資を行います。しかし、そのために国内の株式・債券の資産配分は1割未満となってしまい、これでは直感的にもリスクが大きく感じられます。
リスクを抑えた分散投資「リスク・パリティー・ポートフォリオ」
そこでリスクを抑えた分散投資として用いられるのが、「リスク・パリティー・ポートフォリオ」と呼ばれ、リスクの影響の程度を均等にした手法です。これは、一国のなかの富の偏在、つまり格差を測るときに使用されているジニ係数という指標による分析で、リスクの集中度が低い分散投資となることがわかっています。逆にリスクを抑えてリターンを最大化するようなポートフォリオは、理論的にはリスクの集中の度合いが高いとされています。
ちなみにこの手法は、FP技能検定試験(2023年5月実施のFP2級検定試験学科問題)でも出題され、堅実な手法としてFPにも求められる運用知識のひとつとなっています。
そして、その簡便な方法として、リスク(標準偏差)の逆数の比率でポートフォリオを作る手法があります。たとえば、A資産のリスク(標準偏差)が20%、B資産のリスク(標準偏差)が10%で、その比率が2:1であれば、資産配分は逆数の比となる1:2とするという具合です。この簡便な方法も十分実用に耐えるものと言えるとする報告があります(加藤康之「テクニカル詳細 高齢化時代の資産運用手法-キャッシュフロー管理と機能的アプローチ」京都先端科学大学、2015年)。
こうした分散投資の手法は、リスクの集中度が低くなり、万全とは言えませんが、リーマンショックのような市場の大変動に対しても少ない損失にとどめる可能性が高いとされています。
シニア世代はその消費の内容から現役世代より大きくインフレの影響を受けるとする報告もあります。こうした運用も含めてリスクの集中度が大きい極端な資産配分を避けた分散投資で堅実に運用してはいかがでしょうか。
これによって平均すれば年率5%前後の運用ができる可能性があります(日本経済新聞電子版[投信]のバランス型運用[期間10年]のデータを参考に筆者推定)。シニア世代の方々は分散投資の限界を知りつつ、こうした運用に取り組まれることをお勧めします。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師
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