平成27年からの相続税大増税により、ふつうのお宅でもしっかり相続税に備えることが当たり前の時代になりました。本連載では、税理士・内田麻由子氏、弁護士・武内優宏氏の共著『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、実際のケースをもとに、「ふつうのお宅」で起こりうる、身近な相続(対策)の事例を見ていきます。

相続紛争になるとは誰も思っていなかったが・・・

先日亡くなった谷沢正嗣さん(84歳)には、長男の和正さん(54歳)、長女の歩さん(50歳)、二男の卓郎さん(48歳)の3人の子がいた。正嗣さんには、財産として自宅(時価4000万円)と500万円の預金があった。長男の和正さんには、妻と2人の子どもがおり、正嗣さんの自宅で同居していた。

 

 

歩さんは結婚して夫の持ち家に住んでいて、卓郎さんも結婚し、マンションを購入して生活していた。正嗣さんは生前「うちの家族は仲が良いから、相続でもめることはないよ」と常々言っていて、遺言は残していなかった。事実、正嗣さんの生前は、歩さんも卓郎さんも、「自宅は親と同居している兄・和正さんが引き継げばいいんじゃないの」と言っていたので、誰もが相続紛争になるとは思っていなかった。

 

しかし、正嗣さんが亡くなると、二男の卓郎さんが「和正兄さんが自宅を相続するのであれば、やっぱり、きちんと僕のもらえるはずの相続分3分の1を金銭で精算してほしい」と言い出した。

 

すると、歩さんも「だったら私も相続分は精算してほしい」と言い始めるように。和正さんとしては、弟・妹の相続分を精算するとなると、自宅を売却せざるを得なくなってしまう。「お父さんが生きていたときは、私が相続すればよいと言っておいて、亡くなったとたんに自分の相続分を主張してくるなんてあり得ない」と和正さんはがっくりと肩を落とした。これはもう立派な相続紛争に突入だった……。

兄弟仲が微妙になったとしても、相続分を主張する理由

谷沢家の相続がもめてしまったことの発端は、二男の卓郎さんが、これまで自宅は長男が相続すればよいと言っていたのに、急に相続分を主張し出したことにありました。卓郎さんに聞いてみると、次のような事情がありました。

 

卓郎さんは自営業をしていて、以前は景気もよく生活は潤っていたのですが、このところの不景気で、だんだんと苦しくなってきていたのです。さらに、フィギュアスケートをしている卓郎さんの3番目の息子が、スケートの指導で有名なX県の私立高校に進学したいと言ってきたのです。全寮制の私立高校に行かせるほどの金銭的余裕はなく、その高校への進学は断念してもらおう……と悩んでいた矢先に相続の話が舞い込みました。

 

卓郎さんの妻は、うまくすれば進学資金が作れるのではないか、と考えたのです。卓郎さんも最初は、これまで自宅は兄が相続すればよいと言った手前、いまさら相続分の主張などできないと妻には反論したのですが、妻は、「相続分の3分の1は認められた権利だよね。権利を主張することがそんなに悪いことなの? それで子どもの進学機会を奪うなんて、私たち家族とお兄さんとどっちが大切なのよ」と言われてしまいました。

 

こうして卓郎さんは、和正さんに「やっぱり財産の3分の1は欲しい」と言い始めたのです。みなさんがこの立場におかれたら、どうでしょうか。私も、そのような状況にあれば、たとえ兄との仲が微妙になったとしても、相続分の主張はすると思います。卓郎さんは、かつては裕福な生活をしていた経営者ですから、このところの生活の厳しさを兄・和正さんに正直に告白することは、プライドが許さなかったようです。

 

その一方で、和正さんとしては、年に一度は家族全員で実家に集まり、父を囲んで楽しく食事会を開くなど、弟とは良好な関係を築いてきたつもりです。ですから、こんなふうにもめるとは想像していませんでした。父の最期も全員で看取りました。和正さんと卓郎さんは年の差もあり、子どもたちの年齢も離れているので、最近は行き来をしなくなっていて、互いの状況があまり見えなくなっていた時期であったことは事実です。

 

しかし、父が生きている間は、「兄さんが相続すればいいよ」と愛想よく言っておきながら、いざ亡くなったら手のひらを返して自分の相続分を欲しいと言い出した、身勝手な弟としか思えませんでした。不動産は分割しにくい遺産です。和正さんは住み慣れた自宅を売却することはなんとしても避けたい。和正さんは弟・妹の相続分を少しでも減らそうとあれこれ主張をします。

 

結局、谷沢家の場合、お互いに主張を譲らなかったので遺産分割調停で解決をすることになりました。卓郎さんは、相続分に見合った金銭を手にすることはできましたが(歩さんは相続額を減らすことに同意)、和正さんと卓郎さんは絶縁状態となってしまいました。こうして仲の良かった家族が、「相続」がきっかけで「争族」に発展していくのです。

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    本連載は、2014年9月3日刊行の書籍『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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