前回は、適切とはいえない「行き止まりの私道」の評価規定について取り上げました。今回は、「郊外」の賃貸マンション・アパートが抱える問題点について見ていきます。

建てた瞬間から発生する、家賃下落を招く複数のリスク

問題になると思われる物件の条件を羅列します。


①昭和60年以前に建てられた鉄筋3階建て以上の賃貸マンション・アパート

②都心部駅(山の手線各駅)からの徒歩を含む時間距離が1時間を越える立地にあること

③さらに最寄り駅から徒歩で12分以上(約1km)かかること

④この5年ほど家賃の下落が顕著に見られ、空室率(※注)が常時20%を越えること

⑤外見の古さと老朽化が相まって修繕費がかなり嵩みつつあること

⑥所有者本人の高齢化に伴い管理が杜撰になり、不動産管理会社との意思の疎通が十分ではない
⑦昭和56年以前に建てられており耐震補強もしていない(ますます、入居率が悪化する)

※注)空室率の定義:

仮に全戸数10戸のマンションの内、2戸がそれぞれ12ヶ月間空室だった場合の空室率は、2戸×12ヶ月=24 24÷120(満室だと10戸×12ヶ月=120なので)=20%

 

次に何が問題となるかを整理したいと思います。


①親身になって相談に乗ってくれる専門家がいない

②売却するという選択肢を持っていない(持ち続けるという幻想がある)

③時価(路線価評価ではない)がいくらであるか全く把握していない

④修繕計画・将来計画がほとんどない

⑤入居者へのサービス心や愛情が薄い

⑥相続時にこの物件を誰に相続させるか決めていない

 

郊外立地型の多くの地主さんたちはこのようなマンション・アパートを所有しています。何でもそうですが、新しいうちは入居率が100%あり家賃も順調に入ってきます。しかし、建築物は太陽や風雨に晒されます。3年も経たないうちに見た目の汚れや老朽化に悩まされることになります。

 

特に市場(競合マンションと入居者)が相手の賃貸マンションはこれらの要因で家賃下落に拍車がかかります。つまり建てた瞬間にこれらのマイナスの要因との戦いが始まるのです。しかし、大変恐縮ですが多くの地主さんにその覚悟が余りありません。家賃と言うお金を得ることへの執着心が少ないのです。武士の商法ならぬ農家の商法です。


ここは原点に戻って考えるべきでしょう。つまり、このマンションを所有する意味です。マンション所有も経営の一環です。このマンションを建てた理由は何でしょうか。家賃を得るという金儲けですか。それもありです。否定はしません。しかしあまり儲かっていないのが現実です。


マンション経営の本来の理念は、地域住民にリーズナブルでかつ安心できる建物を提供して、快適に暮らしてもらうこと・・・ではないでしょうか。


このことは何も30年前の地主層に当てはまることではありません。これからの土地有効活用においてもこれをきっちりと理解しているかどうかで、土地経営のあり方が変わってくると思うのです。この辺は改めて考えていただきたいところです。

郊外で発生しやすい「時価」と「路線価」の逆転だが…

さて、今回は③の時価に話を絞りたいと思います。


不動産鑑定士の立場からするとこのような賃貸マンションの値段が気になって仕方がありません。つまり、相続が起こったときに評価がどうなるかです。

 

神奈川県のとある物件を想定します。(新宿から電車と徒歩で約1時間)

 

 

ここで注意していただきたいことは、鑑定評価額が適正だとすると、路線価評価との逆転現象が起きます。つまり、路線価で申告すると、高い税金を納めることになります。実際に路線価評価では売れない事例(賃貸マンションとその敷地)が出ています。


但し、ここで忘れてはならないのが、広大地判定です。この物件が広大地に該当するかどうかです。面積は800m²、奥行きが32mあるので、区画割の際に開発道路を入れる蓋然性は高くなります。また、1低専(50/100)であるので最有効使用は戸建住宅用地と判断します。よって、広大地となる可能性が高くなります。そうすると、

 

広大地適用後の土地評価は、

 

 

つまり、郊外地に存在する収益物件は財産評価基本通達上の広大地を織り込んだ価格だということが分かります。尚、広大地に該当するかどうかは、税理士と打ち合わせにより行って下さい。

本連載は、株式会社アプレイザルの代表取締役・芳賀則人氏のブログ『芳賀則人の言いたい放題!』から抜粋、再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒https://t-ap.jp/blog/cat_blog/column/

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