「子供の頃のエピソードを教えてください」面接で聞かれたら貧困層は一瞬で詰む?過熱化する〈体験投資ブーム〉がもたらす体験格差の時代

「子供の頃のエピソードを教えてください」面接で聞かれたら貧困層は一瞬で詰む?過熱化する〈体験投資ブーム〉がもたらす体験格差の時代
(※写真はイメージです/PIXTA)

ミドルクラス以上の家庭で過熱化する体験投資ブーム。これまでは「学力」を高めさえすれば一発逆転が狙えた社会だったのが、急激なAI技術の進歩で人間の純粋な「学力」の価値が急速に陳腐化。「豊かな経験」の価値が上がっています。本記事では、御田寺圭氏の著書『フォールン・ブリッジ』(徳間書店)より一部抜粋・再編集し、過熱化する体験投資がもたらす社会の姿について考えます。

「体験投資レース」が少子化を加速させる

おそらく今後ますます苛烈化する体験投資のブームは、若い世代にとってさらなる少子化圧にもなってしまう。子どもを持つことの経済的・心理的ハードルを爆発的に高めてしまうからだ。

 

それこそ週5~7日の習い事をぎっしりと詰め込み、体験投資を充実させるには、低く見積もっても月に10万円近い追加費用が発生することになる。これに耐えられる家庭というのはさすがに限られてくる。しかもそれはこれからの時代には「十分条件」ではなく「必要条件」になる。子どもがフィルタリングされる要件がまさにそのような体験投資の多寡になるからだ。

 

社会がAI時代に設定するフィルタを突破できそうもない経済状況の人びとは子どもを持つことをためらい、諦めるようになる。あるいは、体験投資を子どもに施してやれるくらいの余力を持っているような層の人びとでも、だからといって「体験を十分にさせてあげられるような人間でなければ子どもを持つ資格などない」という世の中の倫理的ハードルの青天井の高まりに自分たちが十分に応えられる自信がなく、子どもを持つことに強いリスクを感じるようにもなる。

 

私たちが善かれと思いながらやっている教育投資チキンレースは、もはや「教育」の枠を超えて、全人格的な投資へとその戦線を拡大している。広がりすぎた戦線を支えるような経済的余力と精神的余力を持つ人は限られてくる。ごく一部の富裕層だけが子どもを積極的につくり、それ以下の層はじわじわと子どもをつくらなくなっていく、そういう社会構造に変化していく。というかもうすでにそのような兆しは見えている。

 

貧困層にとってはいうまでもなく、いまは嬉々として体験投資にリソースをつぎ込む中流以上の層にとっても、終わりのない競争にいつか疲れ果て、「これならただペーパーテスト一発勝負で好成績を収める能力が基準だったころのほうがマシだった」と懐かしく振り返る日がそう遠からずやってくるだろう。

 

 

 

 

御田寺 圭

文筆家

フォールン・ブリッジ

フォールン・ブリッジ

御田寺 圭

徳間書店

情報技術の発達とともに、だれもが手軽に 「つながり」を得られる時代になった。 スマートフォンの画面を覗いてみれば、 一人ひとりがいまなにをしていて、 なにを考えているのかが、 いままで以上に見えるようになった…

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