前回は、企業活動を評価する上での決算書の見方について解説しました。今回は、企業の支払い能力を見極める「フロー」と「ストック」という視点について見ていきます。

支払い能力は「利益ではなく資金収支」で見る

これまで見てきたとおり、結局、倒産の原因は「支払い不能」です。なので、ある企業が倒産するかどうかを予測するためには、その企業の「支払い能力」を評価すればよいことになります。

 

では「支払い能力」とは何なのか。

 

売上が減少したり、赤字が続いたり、債務超過になったりすれば、間接的に支払い能力が少なくなることは推測できます。しかしそれらは、支払い能力そのものの評価にはなりません。

 

一般的な倒産イメージに当てはまらない倒産が多く存在している理由は、利益と支払い能力との乖離が原因です。では、企業の「支払い能力」とはどのように評価すればよいものなのか。

 

私の考えでは、企業の支払い能力は以下の2つの視点で見ることができます。

 

① フローの支払い能力……本業での資金収支(継続収入からの支払い能力)

② ストックの支払い能力……資産の換金力(いざという時の支払い能力)

 

1つ目の視点は〝フローの評価〞です。

 

フローというのはその企業の「本業での資金収支」のことです。企業が儲かっているか否かを評価する時は、どれくらい利益が出ているかを見るのが一般的ですが、利益の多さは必ずしもキャッシュの多さを指し示すわけではありません。

 

その意味で、支払い能力を評価するうえでは、利益という指標を参照することはあまり適切ではありません。たとえ利益が出ていても、キャッシュにならなければ、支払い能力が増えているとは言えないのです。ですから、企業の支払い能力を評価するには、利益ではなく資金収支を見る必要があります。

「ストック」は資産の売却で得られる支払い能力

もう1つの視点は、〝ストックの評価〞です。

 

ストックというのはその企業が保有している資産の換金力のことです。たとえ資金収支が悪くても、企業が何らかの資産を保有していて、それを売却すれば何かの支払いに回せるというのならば、それも支払い能力として評価できるという考えです。

 

フローとストックの違いは、個人が住宅ローンを組む事例で説明するとわかりやすくなります。

 

一般的に、住宅ローンの支払いは毎月の給料の一部から行います。この時、給料から生活に必要な費用を差し引くと、月々何万までなら支払えるのかがわかります。これがフローの支払い能力です。

 

たとえば、毎月の給料が30万円で、生活費が20万円だとしたら、フローの支払い能力は10 万円になります。では、何らかの理由により、毎月の収入が減ったり、支出が増えたりしたら、どうなるでしょうか?

 

通常は、生活費を切り詰めたり、奥さんにも働いてもらったりします。場合によっては、金融機関に支払い条件の変更を相談するかもしれません。それでも足りなくてローンの支払いが滞ってしまった場合、期限の利益を喪失するので、持っている資産(住宅)を売却して、残債の支払いに充てなければなりません。

 

このように資産の売却によって得られるものが、ストックの支払い能力です。住宅をローンの残額以上の金額で売却できるのであれば(ストックの支払い能力が債務より大きければ)、ローンを終わらせたうえで、新しい家での生活をスタートするための資金も用意できます。

 

住宅を売ってもローンが残ってしまった場合(ストックの支払い能力が残債より少なければ)、残りのローンを払いながら、新しい家の家賃も支払わなければならなくなり、生活も苦しいままでしょう。

 

まとめると、企業の支払い能力は下記のようになります。

 

フローの支払い能力=継続的な収入からの支払い能力

ストックの支払い能力=いざという時のための資産による支払い能力

本連載は、2016年10月12日刊行の書籍『取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意

取引先の倒産を予知する「決算書分析」の極意

田中 威明

幻冬舎メディアコンサルティング

分業化、グローバル化が進んでいる現代にあって、自社のみで事業を営むことはできません。取引先の経営状況を正確に把握することは、これからの時代を勝ち残るために必要不可欠です。 しかし、教科書的な決算書分析の手法で、…

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