40年間連れ添った「夫」には戸籍上の配偶者と子が・・・
本連載の第1回と第2回で、ケース①「死後の準備をしてなかったために、相続トラブルが起きてしまった事例」を紹介しました。今回は、ケース②「死後の準備をしていたにもかかわらず、相続トラブルが起きてしまった事例」について見ていきます。
こちらも、筆者が実際に経験した話です。
筆者は、知人からの紹介で節子さん(仮名)のお宅に伺いました。節子さんは、3週間前に内縁の夫である澄夫さん(仮名)を亡くされ、その相続について相談したいと、知人を通して筆者に連絡がありました。
筆者がお宅に伺ってみると、普通のご夫婦のお宅で玄関先の表札にも澄夫さんの名字が掲げてありました。節子さんも日常では、澄夫の名字を通称として使っているそうです。
節子さんがこの自宅で澄夫さんとの生活を始めて、なんともう40年。ご近所の誰から見ても、節子さんと澄夫さんは「普通の夫婦」に映ったでしょう。しかし、澄夫さんには戸籍上の配偶者と、その配偶者との子供が2人います。
さて、内縁の夫である澄夫さんの相続はどうなってしまうのでしょうか。
戸籍上の妻や実子との話し合いを前提とした遺言書!?
なぜ澄夫さんは、戸籍上の配偶者と離婚しなかったのか・・・。筆者は、この素朴な疑問を節子さんに投げかけました。するとこんな答えが返ってきました。
「40年前、主人(澄夫さん)は離婚するつもりだったんです。だけど相手の方が一切応じてくれなくて・・・それで結局、離婚に至らなかったんです。」
なるほど・・・それでは今回の相続も一筋縄ではいかないかもしれない。そんな思いが筆者の頭によぎりつつも、話は本題に進みました。
澄夫さんは生前、自身の死後にトラブルにならないように弁護士に相談し、遺言書を準備していました。その遺言書には、以下のように記載されていました。
「すべての財産の2分の1を節子に、4分の1を戸籍上の妻A子に、8分の1ずつを子供2名にそれぞれ相続させる。具体的な遺産の分け方は、4名で協議することとする。」
正直、前途多難な遺言だと思わざるをえませんでした。法律では節子さんに遺産の2分の1が確保されていることは確かです。しかしそれを実現するには、戸籍上の妻や子供たちと話し合わないといけないのです。内縁関係にある節子さんにとって、それはあまりに酷なことでしょう・・・。