夫婦同然でも「愛人」には相続権がない
亡くなった人に「愛人」がいた――。これだけで、なんとなく「相続でもめそう・・・」と思われる方も多いと思いますが、まさにその通りです。亡くなった人に愛人がいた場合には、相続トラブルが起こる危険が潜んでいるのです。
ではなぜ、愛人がいると相続でもめるのでしょうか。
愛人、つまり結婚してない相手には、法律的には財産を相続する権利がありません。しかし、「結婚」という形をとらなかっただけで、長年、夫婦同然に連れ添ったという人も世の中には数多くいるでしょう。
その人からすれば、「籍が入っていないだけで夫婦と変わらない生活を送ってきたんだもの。相手の財産は、当然、私が相続するものよね。」と思うのも不思議ではないかもしれません。
こうなると、「法律」と「気持ち」が完全に相反してしまいます。ここに、相続トラブルの種が生まれるわけです。
父の面倒を看た愛人に財産を渡す決意をしたが・・・
では、愛人がいる人が将来相続でもめないようにするために、どんな準備をしておくことが望ましいのでしょうか。そのお話をする前に、実際に筆者が携わった次の2つの事例を紹介します。
ケース①「死後の準備をしていなかったために、相続トラブルが起きてしまった事例」
ケース②「死後の準備をしていたにもかかわらず、相続トラブルが起きてしまった事例」
今回は、ケース①を見ていきます。
伊東啓太さん(仮名)は、亡くなったお父さんの相続手続きのため、当社へ相談に来られました。
このお父さんは、2度の離婚を経験していました。お父さんの相続人となるのは、1度目の妻との間の子である伊藤啓太さんと、2度目の妻との間の子である次男の2人です。
しかし、このお父さんには晩年を連れ添った女性、八重子さん(仮名)がいましたが、婚姻はしておらず、自分の死後のことについても何ら準備をしていませんでした。
伊東さんは、筆者にこう話されました。
「父の遺産は、本来、相続人である私たち兄弟2人が相続するものです。ですが、最期に父の面倒を看てくれた八重子さんに、法律上の妻と同等の財産(全財産の半分)を受け取ってほしいと考えています。兄弟2人でそう話し合って決めました」
正直なところ、筆者は少し驚きました。腹違いの兄弟がいる場合、それだけで遺産分けの話がうまく進まないことも珍しくありません。それなのに、その兄弟二人が協力して、相続人でない八重子さんへ財産を渡したいと言うのです。素晴らしいお話ですよね。
ところが、この伊東さん兄弟のお気持ちは、当事者の八重子さんによってくじかれることになります。
「すべての財産は自分のものだ」と主張する愛人
伊東さんがお父さんの財産を整理していると、お父さんの通帳から、亡くなる直前に何千万円ものお金が引き出されていることが分かりました。お金を引き出したのは・・・恐らく八重子さんです。伊東さんがそのことを八重子さんに確認すると、こんな答えが返ってきました。
「主人(亡くなった方)の財産は全部、私のものです。だからいくら引き出そうとあなたに関係ないでしょう」
これには、伊東さんも面食らったそうです。伊東さん兄弟は、相続人でない八重子さんに遺産を半分渡したいと思っていたのに、八重子さんは違っていたのです。
その後、伊東さんは何度も八重子さんに話し合いを持ちかけましたが、話は平行線。伊東さん兄弟の善意は、完全に打ち砕かれてしまいました。
とは言え、八重子さんは相続人ではないため、遺産を相続する権利はありません。しかし、その八重子さんは、遺産を手にするためにびっくりするような手段に出てきたのです。
この話は次回に続きます。